【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

フェンフリー同盟諸国をはじめ世界中の国々が
「アナランドは世界の宝、世界の未来の象徴である【王たちの冠】を盗んだマンパンの大魔王に、いかなる制裁を加え、シャランナ王に借りた冠を無事奪還するか?」に耳目をそばだてている。

それなのに、その大魔王に挑まないとアナランド政府が決定したとき、僕は背筋がうすら寒くなる思いがした。

フェンフリー同盟諸国はこの姿勢をどう見ることだろう?

宮廷官僚によって行われる関係省庁連絡会議の内容は、同じ公務員であるだけに僕の耳にも入ってくる。

「要は、冠を取り返せばよいのであり、大魔王を倒すのが目的ではない。軍隊の派遣は目的に沿ったものとは言い難い」
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オイオイ!
取り返せる望みが薄いからこそ武力制圧の正当性が高まってるというのに、なぜ話を逆進させた!?

しかし彼らはこのズレまくったコンセプトを、あたかもトレンドにピッタリな名案のように強行した。

そしてこの決定がなされたときから、フェンフリーをはじめいくつかの国に打診していた援軍要請も一切行われなくなったんだ。

論旨のすり替えはいつものこと。
一部宮廷官僚の独善が国民総ツッコミの対象になるおバカ政策になってしまうことも、官庁ではあり得ることだけどさ・・

だから“有事”なんだって!
こんなときに平和ボケしたセオリーを適用するなって!

ホラこうなった。ニュース見てごらんよ
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各国では「戦う意思を失って膝をついた状態」か、「やけっぱちになって開き直った状態」とみるかで意見が分かれている(フェンフリータイムズ)。

主要6か国の対アナランド輸入依存度が急速な後退傾向(デイリーカーレ誌)。

アナランドを準敵性国家と認識したいくつかの国が、危険要素は早めに潰しておくべきと主張し、国境付近への兵力集中が行われつつある状況(ラドルストーン日報)。

ちなみに、我が国でカクハバード側とは正反対にある安全なはずの南西地区で、しきりに前哨基地が強化されているのはこのせいだ。
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勇者への期待値が高まった、って言ったけど、それは国家が危急存亡の時だからだ。

【王たちの冠】の場合にはさらに意味が大きくて、フェンフリー同盟の、ひいては世界が危急存亡の時にある(引き起こしたのはアナランドだけど)。

そんな折に国民を救う義務は、国民が納めた税金で食っている国家の人間が果たすのが本来の姿だ。

今は誰がどう見たって有事だ。
戦争に匹敵する事態の中で、国民の生命財産が大きく喪失しつつある。

ここまで深刻な事態に陥ると、“自助”だとか“共助”なんて、力なき者たちが歯ぎしりして頑張ったって、まとめてペシャンと押しつぶされて、あっさりジ・エンドになりかねない状況なんだ。
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だからこそ、国家および国民救済の行為を直接担当するのは、国家施策の実施部隊である行政が、まずこれに任じなければならない・・・

と、こんな絵図がお城の政治家と宮廷官僚たちの筆によって描かれ、下級役人がひしめく官庁街におろされてくると、公僕である僕たちは、甘んじてその示唆するところに従わなければならない。


それでどうなったかというと、この問題への対処は、ひとりの担当者によって為されなければならないという結論が出たんだ。

アナランド国軍によるマンパン砦への進行は行わないという決定になったからだ。
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ちなみに細かいこと言うけど、上で言ってる「~によって為される」の“為す”は“業務担当者”に当てられた、単なる作業を指し示す文言であり、「事業を成し遂げた」の“成す”は、彼ら宮廷官僚の手柄として使われるアンタッチャブルな文言だ。
この使い分けができない役人は出世できないよ。


さて、どんな利権が絡んだのかは、僕のような下っ端には分からないが、【王たちの冠】強奪を行ったマンパンの大魔王を、武力で屈服させる方針は無くなった。

今回、大事な借り物の冠を盗まれたアナランドに、貸主であるフェンフリー同盟の盟主・シャランナ王の態度は冷ややかだ。

シャランナは平和な民族国家の成立を目論んで、虎の子の冠を諸国に貸し出し、長い年月をかけて同盟を拡大させてきた。
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実際、そのおかげで世界は平和になりつつあった(今回の盗難が起きる前まではね)。

しかしそれは、所有者にたぐいまれな統率力と判断力をもたらす【王たちの冠】が、フェンフリー側にあってこそ可能なことで、悪意に満ちた大魔王が危険な土地・カクハバードを統一した暁には、積極的に侵略の姿勢を採りはじめることは疑いもない。

つまり、【王たちの冠】を奪われたアナランドの失態が、どれほど重大なものであるかは明らかだ。
どう責任を取るつもりか、世界中から厳しい視線が注がれている。
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「うなぎを焼いた煙の匂いで飯を食う」なんて、どこの国の言葉だか思い出せないけれど、古い言い伝えで聞いたことがある。

僕は、ありつけると思っていた豪勢な料理の数々を空想しながら、自分の給料で賄う、いつもの粗末な食事を摂っている。

固くなった味のしないパンを口に放り込み、ぬるいヤギの乳で流し込んでいると、外では前哨部隊の居留地が騒がしくなり始めた。

警備兵の朝の交代時間なのだ。

女たちが外へ出て、洗濯や食事の支度をしている音も混ざってくる。

冠が盗まれて以来、【暗黒の土地】と呼ばれるカクハバードの南西に位置したこのアナランドでは、特に北東の門の防備が厳しくなった。

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増員のため他の地区から回された兵士により、この辺境の地が賑わっている。
食糧や雑貨、武具や補強材なんかの流通が増えて、市が立つほどなんだ。

僕は3日前ここへ来て、初めてそのことを知った。

北東地区の警戒に力が注がれる一方、我が国への侵略がささやかれる他国軍が、南西方面からアナランドをうかがっているとの警戒感を高めている。

今のアナランドの国力は、北東と南西に偏っている。
軍事力もそうだし、経済力も労働人口もね。

国境付近に配置される兵士が圧倒的に不足したので、中央から引き抜かれた兵士たちが東西の前哨基地に集められた。
僕は最近訪れていないけど、南西地区もここと同じように賑わっていることだろう。
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そして、精鋭を東西に集結させたため、その他の前哨基地は軒並み手薄になっている状況が、しばらく前から続いている。

臨時に前哨基地に配置された近衛兵が、いつしか前線に腰を据えるようになっていて、実のところ城下町をはじめとした中心地区は、攻撃されたらひとたまりもないことは半ば公然の秘密なんだよね。

僕の勤める官庁街でも、平和を謳歌したあの頃とは比較にならないくらい閑散としていることがわかるようになっているしね。

お城の警備が手薄になるのはマズいからと、警官が近衛兵の代わりに王の近辺に配置されたせいで、警察力も弱っている。

そのせいで中心地区での犯罪が増えているし、急な人口増加が起きている辺境地区でもまた、犯罪が増えて問題になっている。
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治安の悪化におびえる善良な市民たちは、安心して暮らせる元の日常を願ってるけど当然だよね。

だいたいの状況はわかってもらえたかな?

国全体をグルリと外壁が囲んでいても、安全は確保できないし、安心の確保はもっと難しい。
やっぱり平和なことが一番価値のあることなんだね。

そして、その何よりも“平和”が望まれるこのタイミングで、“勇者”への期待値は最大級に達する。
つまり、僕に対して・・・

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