結局まだ今の時点では、僕にもカントパーニに侵攻していると思しき勢力の見分けがつかないんだ。
案内の男の、幅広で筋肉質な背中を見つつ、僕は彼に従って村の奥へ進んでいく。
小屋に入ると、ここが倉庫だということがすぐにわかった。
環境庁の倉庫によく似ていて、オカムラのラックやコクヨのキャビネットがズラリと並ぶこの様は、倉庫以外にはまずありえない。
だが、それほど資金力のなさそうなこのカントパーニに、これほどの設備が整っていることに違和感が湧いてくる。
いくら宿屋を構えて旅行者を受け入れる村の商人つったって、1時間もかからん場所にアナランドというれっきとした国家があるわけだから、大口の商取引を希望する商人なら、皆そっちへ流れていく。
カントパーニでそんなに儲けが出るような商取引は行われないはずで、そういう野心のある商人は、早々にアナランドへ鞍替えして儲けているんだ。
役所出入りの商人にも何名かそういうのがいるよ。
(おかしいな)
訝しそうな表情が顔に出ないように気をつけながら倉庫内を見回している僕を、でっぷりとした倉庫番の男がジロリと睨んでいる。
コイツは4カ月前には近くの商店のオヤジだったはずだ。
ごうつく張りなところに変わりはなさそうだけど、少なくともこんな大量の商品に囲まれている様子には、どこか浮わついた落ち着きのなさを感じて僕も何だかソワソワする。
どうせコイツとの会話も神経使わないといけないんだろ?
知り合いだとバレないようにね。
僕を案内してきた小柄な男は、倉庫番のでっぷり男に、僕が物を買うためにここへ来たのだと説明し、すぐにその場を去った。
これ以上の僕との会話を避けたいんだろうね。
余計な発言は災いを生むからね。
純粋な初対面なら難なく立ち回れるだろうけど、本当は顔見知りである僕との会話は、特に気を遣うんだろう。
さて、次にババを引いたこの倉庫番は、やはり顔見知りである僕とどう対峙するか?
そして僕はこの男に対し、どういう会話をするのが無難か?