【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

2020年10月

結局まだ今の時点では、僕にもカントパーニに侵攻していると思しき勢力の見分けがつかないんだ。

案内の男の、幅広で筋肉質な背中を見つつ、僕は彼に従って村の奥へ進んでいく。

 

小屋に入ると、ここが倉庫だということがすぐにわかった。

環境庁の倉庫によく似ていて、オカムラのラックやコクヨのキャビネットがズラリと並ぶこの様は、倉庫以外にはまずありえない。

 

だが、それほど資金力のなさそうなこのカントパーニに、これほどの設備が整っていることに違和感が湧いてくる。

 

いくら宿屋を構えて旅行者を受け入れる村の商人つったって、1時間もかからん場所にアナランドというれっきとした国家があるわけだから、大口の商取引を希望する商人なら、皆そっちへ流れていく。

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カントパーニでそんなに儲けが出るような商取引は行われないはず
で、そういう野心のある商人は、早々にアナランドへ鞍替えして儲けているんだ。

役所出入りの商人にも何名かそういうのがいるよ。

 

(おかしいな)

 

訝しそうな表情が顔に出ないように気をつけながら倉庫内を見回している僕を、でっぷりとした倉庫番の男がジロリと睨んでいる。

 

コイツは4カ月前には近くの商店のオヤジだったはずだ。

 

ごうつく張りなところに変わりはなさそうだけど、少なくともこんな大量の商品に囲まれている様子には、どこか浮わついた落ち着きのなさを感じて僕も何だかソワソワする。

 

どうせコイツとの会話も神経使わないといけないんだろ?

知り合いだとバレないようにね。

 

僕を案内してきた小柄な男は、倉庫番のでっぷり男に、僕が物を買うためにここへ来たのだと説明し、すぐにその場を去った。

 

これ以上の僕との会話を避けたいんだろうね。

余計な発言は災いを生むからね。

 

純粋な初対面なら難なく立ち回れるだろうけど、本当は顔見知りである僕との会話は、特に気を遣うんだろう。

 

さて、次にババを引いたこの倉庫番は、やはり顔見知りである僕とどう対峙するか?

そして僕はこの男に対し、どういう会話をするのが無難か?

 

手に汗握る展開の商取引の幕が、今切って落とされた(なんてね)。

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男は僕を、村の奥の大きな小屋へ案内した。

 

その道中でコッソリと、カントパーニにかかっていると思しき圧力についての事情を聞きたかったが、男は僕が目配せすると目をそらし、耳元へ口を寄せようとすると歩く速度を速めて近づくことを許さない。

 

今この瞬間も、どこかで見張りの目が光っているのだろう。

(マンパンか? それともフェンフリーか?)

 

どっちにしても、この男は自分や家族の命が的になっていて、僕に事情を話せばただでは済まないということだろう。

 

そのへんの容赦のなさでいえば、マンパンの大魔王のほうが相当えげつないことをしそうに思われがちだけど、必ずしも僕はそうは思わない。

 

今や『平和的民族国家の父』という名声が目の前にちらついたフェンフリーのシャランナ王だって充分怪しいよ。

 

たしかに若き日の彼の野望は、美しき理想国家の樹立だっただろう。

でもそれは、「十分な残り時間」を持っていたからこそ、純粋なものでありえたと思うんだ。

 

すでに老境に至ろうとしている、現在のシャランナ王の執着心。

そのことに関する情報もまた、僕の手元には集まっているんだ。

 

功に逸った老人権力者ほど恐ろしい者はないからね。

手放しで信用はできないよ。

 

だいたい【王たちの冠】を他国へ貸し出す期間を「1国あたり4年」なんて長めのスパンで指定したのだって、当時のシャランナ王が若かったからできたことだと思うんだ。

 

せいぜい最初の1、2カ国に貸してる間くらいは、まだまだ若い自分を満喫できたし、衰えなんてものが自分にやって来ることに現実感も無くてさ、さぞかしルンルン気分だったんじゃないかな?

 

でも、それ以降の国に貸し出してる頃には、徐々に自覚する肉体の衰えとともに「4年の貸出期間」が彼の気持ちを重くしていったことは想像に難くないよ。

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このままだと、自分の命あるうちには「フェンフリー同盟による世界平和の実現」っていう念願を見ぬまま、この世を終えなければならなくなるってね。

 

名声なんて、若いうちならば、たとえそれを失ったって、柔軟な考え方が出来る。

 

実力さえあれば「いっか別に。後でもっかい獲れば」って思えるしね。

 

でもシャランナはさ、「もっかい獲る」ための肉体の躍動が、知らぬうちに失せている事実を自覚したとき、背筋が寒くなったんじゃないかな?

 

フェンフリー国内では非公式に【王たちの冠】貸出年数の抜本的な見直しが議論されている。

そのことは世間には知らされてないんだけど、お城の出入り商人なんかは、耳ざといからね。

 

僕はアナランドへやって来た彼らからコッソリ聞いたんだ。

 

「4年という貸出期間は過分なものであり、借受国では期間満了を待たずに発展が鈍化している感が否めない。上昇の著しい期間を見越した効果的な冠の運用に向け、新たな貸出体制を築く必要がある」(フェンフリー有識者会議での発言より)

 

この発言を耳にした商人は、コーヒーのデリバリーサービスで議場に入り、配膳しながら聞いたという。

議事録にすらなっていないナマの発言だから、リアル感がハンパない。

 

ちなみにフェンフリー政府は、一般の領民に対しては「議事録は破棄した」って公表してるらしいけどね。

 

だからぶっちゃけ、今回のアナランドにおける【王たちの冠】強奪事件の黒幕は、ひょっとするとシャランナ自身でさ、実はマンパンの大魔王と組んで仕掛けた自作自演なんじゃないかって疑ってるくらいなんだ。

 

そうだとすると、アナランドはスケープゴートにされたってことになるね。

 

だいたい、きっかり2年で盗まれるなんて、考えようによっては完全に計画的だよね。

「次はマンパンに2年間貸し出す」とか、唇をぬぐって宣言するシャランナの顔が、かなりリアルに浮かぶんだ。

 

ま、そんなこと口が裂けても言えないけどね。

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カントパーニに入るなり、突然行く手をさえぎられてしまった僕。

 

目の前に立った男は、小柄だががっしりした男だ。

あらためて顔をよく見てみると、この近くの林や渓谷の合間で、よく土木作業をしている男だった。

環境調査のフィールドとバッティングすることが多いので、お互いに顔は知っている。

 

「そこで止まれ! 見知らぬ者よ」

 

見知らぬ者?

コイツ、僕を知らないと言うか?

 

「カントパーニに何の用だ?」

 

おかしいな。

よく見ると、男の目は血走っていて、ただ事でない雰囲気を醸し出している。

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僕は素早く記憶を巡らせてみた。

前回カントパーニを訪れたのは4カ月前だ。

 

そのときもこの男とは顔を合わせた。

野良でのあいさつを簡単に交したけれど、まあ普通の対応だった。

だが今日のこの変わりようは、いったいどうしたというのだろう?

 

この男の精神に病理的な事情で異変が起きたのなら話は別だが、そうでないなら、この4カ月の間に“情勢”が変わったことを意味するはずだ。

 

カントパーニに何らかの圧力がかかったとみて間違いないと思うんだよね。

 

肝心なのは、その圧力がマンパンの大魔王サイドからかかっているのか、それともフェンフリー同盟サイドからかってことだよ。

 

このカントパーニはマンパンからはだいぶ離れている。

だからこそ、どちらの陣営が手を伸ばしているかの見当が付けにくい。

 

僕にとっては本拠地から離れることになって危険ではあるけれど、マンパンに近ければ近いほど、フェンフリーサイドの陰謀や策略は施しづらくなるから、こういった場合の判断は楽になるんだけどね。

 

とにかく、どっちかわからないのがいちばんキツイ。

 

僕がこの任務に懸命に取り組む姿を示せば、フェンフリーなら僕のことを信用し、逆にマンパンだったら僕は警戒される。

 

逆に、任務に対して怠惰や反抗の素振りを見せればマンパンは僕に期待をかけ、フェンフリーはそんな僕の抹殺を狙うだろう。

 

どちらにせよ、試されてると思ったほうがいいな。

ここはまだ旗幟を鮮明にせず、どっちつかずな態度に徹したほうが無難なはずだ。

 

今本当にしたいのは、『質問』なんだけどね。

 

僕の目の前に立つこの男に「何かあったのか?」と訊ね、4カ月前とは豹変した態度の理由を、ぜひとも問い質したい。

 

けど、ここはヘタに情報を得ようとする冒険は避けたほうがよい

いかにも旅人っぽく、装備品への関心を示しておくべきだろうな。

 

ちょうどよいことに僕は今、何よりも剣が欲しいんだ。それと食料ね。

この二つに対する質問をしていく中で、なんとか情報を聞き出したい。

 

僕は、初対面のフリをしているこの男の芝居に乗って、自分は商人だと名乗り、道具屋を探していると告げた

 

男はうなずいて、後についてくるよう僕に告げ、先に立って歩き出した。

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虎穴に入らざれば虎子を得ず。

 

カントパーニの村の入り口(といっても、道沿いに小屋が並ぶ一帯を村と呼んでるだけから、明確な“入口”なんてないけどね)でいったん仁王立ちし、行く手に佇む大小の小屋を睥睨するように見渡してから、僕は歩き出した。

 

通りには人っ子一人いないけど、小屋の中からの音や気配で人が居ることはわかる


いくつもの視線がじっと僕に注がれてることもね。

 

アナランドにほど近いこの地域の情報は、役所出入りの商人から聞くだけでなく、僕自身が環境調査業務で実地に訪れたことがあるからよく知ってるんだ。

 

日帰りできる距離だから、さすがに泊まったことはないけどね。

でも、宿屋で昼ご飯を食べたことぐらいはあるよ。

 

「宿屋の食堂のレジ前に携帯食料が置いてあるはずだから、品切れにならないうちにそれを買って・・・いや、それともまずは商店へいくか?」

 

先に剣を物色し、もしそこに食料も売ってればついでに仕入れときたい。

 

というのは、剣を買ったついでなら、レジ袋はおまけでくれそうな気もするけど、宿屋で食料だけを購入したら、絶対にレジ袋は有料になるはずだからね。

 

僕は今ザックを背負ってはいるけどさ。

今後いろんなものを入れるだろうから、やっぱり食料だけは分けときたいんだ。

 

初期装備として支給されてる2食分の食料は、役所の紙ファイル(A4サイズ10ヶ入り)を包んでたビニール袋に押し込んでるんだけどさ。

 

小さいからすでに容量オーバーでね。


口が締まってないし、材質は薄っすいからすぐに破れちゃうと思うんだ。

 

これだって、持ってくるのに庶務係とひと揉めしたんだよね。

 

「まだ4冊残ってるから、新しい10冊の封を切られると困るんですけど」


「だって食料入れる袋がないんだよ。紙ファイルなんてどうせすぐハケるじゃん? 封切り在庫が一瞬だけ14冊になるけど、ワンチャンこれで行かしてくんない?」


「残りが2冊にならないと、新しいのは開封しちゃいけないんですけど」


「知ってるよ。だから頼んでるし」

 

僕が以前、別の局で庶務担当してたときは、このぐらいの融通は余裕で利かせてたから、ここでも当然楽勝と思ってたんだけど、僕コイツになんか悪いことしたっけか?

 

結局、使いもしない紙ファイル2冊の払出申請をやって、封切在庫をきっちり2冊まで落としてから、あらためて「そのゴミちょうだい」とお願いしてようやく手に入れたんだ。

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ゴミを手に入れるために調えた申請用紙は、ゴミ以下の廃棄物ってことかな?

 

いや。ゴミ以下だったのは、これに費やされた労力のほうだね。

まったく、つまらぬものを斬ってしまった ゴミ以下の人件費を浪費してしまった・・。

 

そんなくだらない記憶をよみがえらせながら歩いていると、とつぜん、ひとりの村人が小屋から出てきて目の前に立ちはだかった。

 

その唐突さが、頭に浮かんだ出来事のショボさに対する叱責に思えてしまい、僕は必要以上に狼狽してしまった。

 

(なんだよ、いきなり)

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今のところフェンフリーのシャランナ王は、あからさまにアナランドを敵視した態度を見せてないけれど、同盟国のいくつかにけん制させているというのが、商人たちのほぼ一致した見方だ。

 

今もアナランド南西部は隣国から軍事的な圧力を受けてるけど、原因はそこにあるらしい。


【王たちの冠】を手にしながらも覇権を目指さずにやってきた平和主義のシャランナ王だけど、ちょっと様子がおかしくなってきたみたいだね。

なにせ、冠を奪われて身内から敵の疑いが発生(アナランドのことだよ)したわけだからさ。

気持ちはわかるよ。なんとなくね。

 

こうなった以上、平和のための戦いを起こすほかないのでは?というのが、カクハバードでのもっぱらの噂でさ。

 

結局は、シャランナが味方諸国を率いる覇王として、戦乱を起こすかもって懸念されてるんだ。

あえてアナランドを敵視しないのは、むしろ激しい戦いの伏線じゃないかってね。

 

ということはだよ。

 

すでにフェンフリーの前哨基地がアナランド近辺に設置されて、国外にある集落は監視地区になってるんじゃないかっていう想像は、考えすぎかもしれないけど、一応頭の隅に置いとくべきじゃないかな?

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万一僕にマンパンへの通敵行為が見られた場合、僕は反逆者としてアナランドに処刑されるよりも早く、今はまだ味方のはずのフェンフリーに抹殺されるかもしれないってことだ。

 

だからって任務どおりにマンパンを目指せば、大魔王が僕の命を狙うんだけどね。

 

さて、そこまで考えに入れたうえで、このカントパーニの本通りを、まっすぐ進むか迂回するか?

 

エッ? そんな選択肢がどこに存在しているかって?

 

(メタ発言)ソーサリー第1巻「魔法使いの丘」のパラメータでは、ここはそのまま村に入る文章になっているので、あれこれ考えたりせずにカントパーニへ足を踏み入れることになります。

 

だから言ったろ? 僕は変わり者なんだ。


敷かれたレールの上、誰かが決めたルールの中での優等生なんてつまらない。

 

僕は、勝手知ったるカントパーニへ堂々と踏み込むことにした。


理由はこの、交通誘導用のライトセーバー程度のショボい剣をサブに回し、使える剣を手に入れたいからだ。

 

武器屋とか道具屋とか、とにかく商店を見つけたら飛び込むぜ! 取引だ!

 

(ふたたびメタ発言)原作はあくまでも「主人公は国の外に出たことがない」という設定です。カントパーニのことも何も知らないのですが、この物語では「データベース利活用論者」として、すでに情報を得ている設定で進めます。

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