【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

2020年12月

とにかくガチの戦闘は避けたい。

できれば1回も経験せず、この任務を終えたかった。

ジャンの魔法防護壁さえなければ、こんな刺客の一人や二人、呪文でカタを付けられたのに…

 

嫌々臨んだ純粋な剣技でのバトルだったけど、意外に好成績だった気がするね。

2回ほど攻撃を喰らったけど、今、刺客は僕の前にひざまずいて許しを乞うている。

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(メタ記述)ともに2回ずつ傷を負わせた状態

刺客:技量ポイント8 体力ポイント6→2

主人公:技量8(+1広刃の剣) 体力ポイント18→14

 

刺客はフランカーと名乗った。職業は刺客、盗賊だそうだ。

旅人を相手に格闘の練習をしていて、僕などは軽く一ひねりできると思っていたらしい。

コイツもカーレを目指しているということで、命を許してもらったかわりに、僕に味方すると約束してくれた。

 

ただ、ここでいったん別れるという。

僕は了承した。

本当は、魔法が使えない今、剣での戦いを強いられるこの状況で、フランカーが同行してくれたら、どれだけありがたいことか…

 

でも、こういうシチュエーションが頭をよぎったんだ。

 

仕事帰りの職場で、下りエレベーターを待ってたら、向こうから仲が良いわけでもない同僚が歩いてきた。

朝の出勤時ならともかく、帰るときは一緒に乗りたくない

だって、その流れで駅まで一緒に歩く羽目になるじゃない?

それに、同じ方向だったら電車の中でも一緒でさ。

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だからって、1Fまで降りて扉が開いてさ、同じ方向に行くのがわかってるのに「じゃ、おつかれさまです」って距離を取るのは精神的負担があるからね。

 

僕は苦手なんだ、そういうの。

だから、知り合ったばかりの刺客と、仲良く同行はできないよ

なんたって、狙われたのは僕だからね。

どんな会話していいかわからないし。

 

たとえばフランカーと齢が一緒だっていう共通点を見つけたとしても、それだけでカーレまで話を引っ張れないしね。

 

しかも、カーレに着いたとするじゃない?

もしフランカーに友人でもいれば、それをきっかけに別れられる。
でも3人で同行する羽目になって、3人とも黙っちゃったらさ…
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マンパンの大魔王と戦う前に、人間関係のプレッシャーで僕は倒れるだろう。

 

フランカーがボッチ型の性格で助かったよ。

ま、これは全部、ジャンがいなくなる前提で考えてることだけど。

 

ジャンと一緒にフランカーを見送りながら、僕は頭の中でジャンを切り捨てる方法を巡らせていた。

でもその前にコイツのカツラ疑惑を解明したい。

ミニマイトには謎が多い。

仮に連中が魔法を使うとしても、僕たちが学ぶそれとは系統が違うはずだから、人の心を読むのに必ずしもTELという呪文を使うとは限らない。

 

「どうして急にボクの頭を凝視するんだよ!」

僕はホッとした。

あまりにもいいタイミングで僕の思考をさえぎったうえ、疑いを持った瞬間にカツラ疑惑を否定するもんだから、ジャンが心を読む魔法を使ってると思ったけど、そうじゃなかったんだな。

オマエみたいなおしゃべりに心を読まれると厄介だからな。

 

「そんなことより、キミ、誰かに見張られてるよ! さっきから気配がするんだ!」

なんだそんなことか。

その程度、別に今始まったことじゃないよ。

そんなの、襲ってきた敵と戦えばいいだけだろ?

 

それより、役所で人間の心を持たないあの会計担当者(あだ名:財務大臣)との接触ときたら…

際限なく湧き上がる怒りを抑える苦労に比べれば全然楽だよ。

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だってさ、ここで襲ってきた敵なら、敵意を隠さなくていいわけだしさ。

思い切り剣でぶっ叩いてもOKでしょ?

とはいえ、呪文が使えない今、襲われたら本当に剣で戦わなくちゃならないから、ホントはそれも困るんだけどね。

 

そんなことを考えながら森の中を進んでいくと、とつぜん目の前に黒装束をまとった背の高い男が立ちはだかった。
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昨日はクイズじじいが僕の前に立ちはだかったけど、あれとは迫力が違う。

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でもいいよ。それで今日はどんなクイズかな?

 

話しかけたが男は答えず、鋭い半月刀を握りしめた

エクササイズ系か。苦手なんだよね。

呪文が使えない僕は、この旅が始まってから、おそらく初めてとなるガチの戦闘を覚悟した。

 

<メタ記述>

刺客:技量ポイント8 体力ポイント6

主人公:技量8(+1広刃の剣) 体力ポイント18

翌朝目覚めて、ふと指を折って出発からの日数を数えてみた。

今日で5日目になる。

ようするに、併任辞令により今回の任務に就いてから5日目の時点で、僕はシャムタンティの丘でようやくビリタンティを抜けたところにいる。

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これって、早いの? 遅いの?

【王たちの冠】が盗まれた日を基準に考えると、今日現在で奪還のための工作員がカーレにも達していないってのは、致命的に遅い。


けど、政府が僕の辞令を2か月近く日延べさせた愚行に比べれば、淡々と前進している僕の仕事は神業と言うほどに早いはずだよ。

 

頭の周りで飛び回るジャンを鬱陶しく思いながら歩く僕は、やがて分かれ道に行き当たった。

この先の丘を登るか下るかなんだけど、もう何度も言ったとおりで、シャムタンティではシャンカー鉱山で高さのピークに達した僕は、この先の判断では常に下り道を選ぶことにしている。

 

谷に沿って1時間下る道は、やがて登りに転じ、また下っている。

もう昼なんだけど、食料はあと1食分しかないので手を付けずにおいた

 

ところで、ずっと気になってるんだけど、ジャンはどこまでついてくるんだ?

ビリタンティを離れてずいぶん経ったけど、相変わらず僕のそばを離れないんだ。

こいつはやっぱり、全国旅行業協会のシャムタンティ担当だったか?

なら、僕は少なくともカーレに着くまでは魔法が使えないぞ!

 

どうするか…

フィジカル面で戦士に劣る魔法使いは、呪文が使えるからこそ戦士のことを「消耗さん」なんて裏でこっそりあだ名を付けてるけど、僕らが「消耗さん」と同じ状況に陥ったら戦士たちから「ひ弱ちゃん」て揶揄されちまう

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おまけに、ジャンがカーレにいる旅行業協会の現場員に僕を引き合わせたら…そしてもしそいつもミニマイトだったら、僕はカーレでも魔法が使えないんだ。

 

やはり、是が非でもコイツは殺っちまわにゃならん…

すばしこくて捕まえられないけど、ジャンはたしか昨日、グランドレイガー酒場で僕と一緒にエールを飲んで、酔っぱらってたよな。

 

(ヨシ)

次の酒場では、大枚をはたいてでもコイツに酒を飲まそう。

僕は飲むふりだけして油断させ、動きの鈍ったところをパチンと…

 

「待って!」

ジャンが叫ぶので僕はギョッとした。

まさかコイツ、僕の頭の中が読めるのか?

僕は背負い袋に入っているスカルキャップのことを思い、背筋が寒くなった。

スカルキャップをかぶってTELの呪文を唱えると、僕も相手の考えが読めるようになる

ジャンはよく見ると、頭に何かをかぶっているようにも見える。

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髪だとばかり思ってたけど、ひょっとするとアート〇イチャーか?

スカルキャップだけど髪っぽくなるアレを発売してるのかもしれない。

「違うよ、これはカ〇ラじゃない!」

 

(ナニッ?)

〇ツ〇じゃないのか?…いやそこじゃない、オマエまさか、僕の考えてることが読める?

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宿屋の料金は、貧乏な僕をあざけるかのような価格で、やり場のない憤りを感じるレベルでさ。

宿泊が金貨5枚、食事が金貨4枚だって…

 

何度も言うけど、僕がこの任務を命じられて最初に持たされたのは金貨20枚だ。

「1日20枚」とかじゃなくてさ、「全行程を通じて20枚」なんだよね。

そして、金貨20枚といえば、僕の年収に近い

 

1泊してメシ食うだけで年収の半分近くを払う宿ってなんだよ!

肩に乗ってるオジャマ虫のジャンの分も入ってるってことか?

でもこいつは旅行業協会の回し者だと思うから、客じゃないよね。

GOGOキャンペーンでジャブジャブの協会なのに、現場で働く下っ端には満足に給料も払ってないとか?

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それで、ジャンが憑りついた客が払う代金に上乗せして、日当をひねり出してるとか…

ありえるな、腐敗しきったアナランドの産業界なら。

 

それから、下っ端公務員の僕の給与が低すぎるのも、価格を聞くたびにショックを受ける原因だよね。

普通にGOGOを使える階層の人から見たら、いくらこのビリタンティのクソ高い宿賃も「自分へのご褒美」とかいう謎の言葉でカタが付くんだろう。

 

ご褒美に金かける余裕がない僕にとって、いちどきにした多額の支出はただの自殺行為にしかならない。

何だか空しくなってきた

そして腹も立ってきた。

今夜は夜行生物に襲われてもいい。野宿だ。

 

金額を聞いたとたんに踵を返す僕のことを、宿の従業員は蔑んでいるんだろうなという被害妄想とともに、建物を出た。

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「チッ!」という音がやけに大きく聞こえてギクッとしたんだけど、それは耳元で舌打ちしたジャンのものだった。

(この野郎)

とは思ったけど、コイツも旅行業協会事務局に体よく使われている駒だと思うので我慢した。

僕が宿屋に泊まって飯を食わなかったから、コイツも今日の日当は出ないようだからね。

 

贅沢が目的じゃなくて、ただ食い扶持が要るから身を挺して稼ぐ現場員が、その苦労のわりに日の目を見ない状況を、ジャンと共有していることには変わりがない。

僕の魔法を使えなくしている迷惑なやつだけど、そこだけはジャンと分かり合える気がしたんだ。

 

村の外へ出てすぐの場所に、野宿によさそうなスペースを見つけた。

ハロウィンの騒がしさは続いているけど、ここは静かだ。
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ジャンと食事を分け合って食べたあと、僕たちは眠った。

村のすぐそばということもあってか、近くに夜行生物も居ないようで、朝までぐっすりだったよ。

 

(メタ記述)

ステータス

技量8(+1広刃の剣) 

体力13→18(食事で+2、眠って+3) 

運勢ポイント8

金貨:10

食料:2→1

持ち物:なまくらの剣、竹笛、ゴブリンの歯12、ジャイアントの歯1、銀の鍵(111)、金貨10枚分の宝石1、にかわ入り薬瓶、鼻栓、玉石4、スカルキャップ

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グランドレイガー酒場を出ると、僕はジャンに文句を言った。

 

「おいジャン。ビリタンティの人たちは、ここがGOGO対象外になったこと知ってるんだろ? ならなぜこんな高値を付けるんだ?」

 

本当はグランドレイガーに聞きたかったけど、彼は怖すぎるから質問を差し控えさせていただいたんだ。

不用品と引き換えにエールを飲ませてくれたしね。

それにもしも、「お答えは差し控えさせていただきます」なんて、下向いて棒読み調で返答されたらドン引きするからね。

 

ジャンは悪びれもせず、僕に説明する。

「だから金貨2枚なんだよ。もしGOGO対象地区だったらこの倍の値段はするよ」

「なんだよそれ? ひどいボッタじゃないか」

 

ジャンが言うには、アナランドが悪いんだってさ。

質の悪い景気浮揚策はかえってデフレを誘発して経済を停滞させるっていうんだ。

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たしかに、一時的に半額になった感覚が身に付くと、キャンペーンが終わったとたん、値段が倍になった気がして使わなくなるからね。

それに、物価指数に連動して年金が減ったら、いま貰ってる世代だけじゃなくて、払ってる側の僕たちの絶望感も爆上がりだからさ。

 

そりゃあ景気も一気に冷え込むってもんだ。

だからビリタンティでは、GOGOの対象になったら価格を倍に釣り上げるつもりでいたらしい。

 

たぶん、アナランドでやってる乱痴騒ぎのGOGOキャンペーンが終わったとき、反動で需要が冷え込む各地域の中、ビリタンティだけが堅調な勝ち組になるんだろうね。

 

なんともクレバーな村だ。

しかし、だとしたら今のこの乱痴騒ぎは一体なんだ?

通りの向こうでは、一人の少年が老婆を膝に乗せて尻をぴしゃぴしゃ叩いている。ワケがわからん。

ウザいからZAPの呪文で一撃死させてやろうとしたけど、ジャンがいることに気づいて思いとどまった。魔法は使えないんだった。

 

まあ、この村の乱痴騒ぎはきちんと計画された年に1度の限定的なもので、アナランドの乱痴騒ぎに比べれば上質ってことになるのかな。

もたつく足で宿屋に向かいつつ、このビリタンティでの1宿1飯の価格にヒヤヒヤしていた。

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