環境庁職員である僕の特別任務名は「カクハバード地域の環境影響評価」
いわゆる環境アセスメントだ。
しかしその任務内容の実態は全く異なるものだ。
なにせ、遥かザンズム連邦まで旅をして、そこにそびえるマンパン砦に侵入し、大魔王に奪われた世界の宝【王たちの冠】を取り戻してこなければならない。

大魔王を欺くために適当な名称の任務に従事する形をとったけど、そんなことアチラさんは百も承知だ。
そのことについては後で話すけど、たまたまこの任務の担当が環境庁の僕だから、一応それっぽい名前にしてあるだけで、本来の任務は「冠の奪還」だ。
この任務には僕の祖国アナランドだけでなく、本来の冠の所有者であるフェンフリーのシャランナ王と、冠を借りて理想国家を作ったフェンフリー同盟参加国すべての願いと要求が込められている。
それほどの任務なんだから、本当は一公務員に辞令を発して従事させるなんておかしな話なんだけど、これも後で話すね。
とにかく、4月1日からこの任務のための新設部署に異動して、多額の補正予算を使った特別待遇が受けられるはずだったんだ。
滋養たっぷりの食事。
質の良い豪華な調度品がそろっていて、それでもなおゆったりした広い部屋。
庭には僕だけが入れる温泉。
執事や世話人たちによって整えられる家事一切。

僕がすべきことは剣技をはじめとした闘術の鍛錬。
本草学・地質学の知見を高める学習。
魔法呪文に使う媒体収集と、選別・吟味。・・など、この困難な任務の成功率を少しでも高めるべく、各種の準備に邁進する自分の姿を、2月ごろからずっと思い描いていた。
だって、そう聞かされていたからさ・・。
でもそれは甘すぎる幻想だった。
3月の中旬ごろから話の雲行きが怪しくなり、僕の頭のお花畑にはあっという間に寒風が吹きすさび、それに巨大な雹が加わって、咲き乱れる花々には穴が開き、あるいは潰された。
そして最後に津波が押し寄せ、僕の甘ったるい理想郷のすべてをさらっていった。