世界の命運をその肩に背負い、ただひとり巨悪に挑む勇者
そういうとカッコイイけどさ、たしかに。
しかもそれが自発的な「内からの声」みたいなものに駆り立てられてなら、まさに本物の勇者だね。
そんな人はきっと見返りなんか求めないだろうし、どんな苦難だってあふれる純粋な使命感で克服しちゃうでしょ。
でも同じ「勇者」だとしてもね、まさかそれが人事異動の辞令で・・つまり紙っぺラ一枚で命じられた公務員じゃあ、サマにはならないよ。
そんな人はきっと見返りなんか求めないだろうし、どんな苦難だってあふれる純粋な使命感で克服しちゃうでしょ。
でも同じ「勇者」だとしてもね、まさかそれが人事異動の辞令で・・つまり紙っぺラ一枚で命じられた公務員じゃあ、サマにはならないよ。
純粋な勇者なら、期待してなかった見返りを提示されたら、感謝しつつ辞退するようなカッコよさを見せつけてくれるんだろうけど、僕なんかはダメだね。
なんせ「期待した見返りがオールカットされた驚きと失望」に苛まれたところからのスタートだから、カッコ良さとは最初から程遠いんだ。

なんせ「期待した見返りがオールカットされた驚きと失望」に苛まれたところからのスタートだから、カッコ良さとは最初から程遠いんだ。

僕の役人人生はそこそこ長い。
まあ、中堅係員(ヒラ)くらいのところかな。
まあ、中堅係員(ヒラ)くらいのところかな。
高卒ノンキャリア組だから、若い割には年次がそこそこで、「中堅」って言ってるけど実は係員としてなら「ベテラン」だ。
でも係員の分際でベテランなんて言葉を使うと色々とアレなもんで、僕らは何となく自分らのことを「中堅」っていう習わしになってる。
でも係員の分際でベテランなんて言葉を使うと色々とアレなもんで、僕らは何となく自分らのことを「中堅」っていう習わしになってる。
でね、
これまでの経験の中で、官僚組織の身勝手さはかなり体得したつもりだったけど、あくまでもそれは日常業務の範疇っていう尺度に過ぎなかったことを、僕は今回の件で初めて知ったんだ。
政治レベルの問題が絡むと、これほどまでに官庁のルールは腐ってしまうし、下っ端公務員の存在なんて、全く物の数ではないものだということを、この有事の中で僕は思い知った。

僕の辞令は、当初予定の4月1日なんかには出されなかった。
2カ月近く待たされたあげく、ようやく5月26日に発されることになったんだ。
2カ月近く待たされたあげく、ようやく5月26日に発されることになったんだ。
つまり、今日。
ということは、当然だけど昨日までの僕は、今回の任務とは無関係の人間のはずだ。
だから、さっそく今日から必要なことだとしても、昨日までの僕に、この任務の準備に専念してもよいという法的な裏付けはない。
昨日までは別な担当を任されているから、そっちの仕事をしないと怠慢だという評価になってしまう。
そして、まだ正式な辞令を受けていない僕に対する厚遇を、役所が用意しなければならない理由もない。
4月1日から受けるはずだった特別待遇は、新設部署が発足していない以上、完全に絵に描いた餅に過ぎなかった。

いや、きっと部屋が発足していても、その旨みは僕には回ってこなかったんじゃないかって気がする。
「カクハバード特別環境調査室」の室長に就任するはずだった、大蔵省の幹部のスキャンダルが表ざたになって室長人事が流れた時から思ってたんだ。
僕が聞かされてた「特別待遇」って、室長が受ける恩恵のことだけを指してたんじゃないかって・・
たぶんそうだね。
いや絶対そうだと思う。
僕はその室長の小間使いをしつつ出発の日を待ち、成功して帰ってくると室長の手柄として記者会見が行われるシナリオだったんじゃないかと・・・