いやはや、愚痴ばっかりで気を悪くしたらごめんよ。
出発直前で気持ちが落ち着かなくってね・・

初日だってのになんだか、今日にいたるまでのウラ事情ばかりがあふれてきてさ。

こういうときって、やっぱ心療内科とか行くべきなのかな。

でも、医者へ行くよりストレスの元から遠ざかるのが一番ってことなら、僕はこの国を出たい。

どう？　わかってもらえたかな？

僕が一刻も早くこの国を出発したい理由・・

「国家の公務員として一日も早く、国民に安寧をもたらすためだな。さすが公僕」だって？

励ます意味で、そう言ってくれたんだね。ありがとう。

それとも、「稼ぎもせずに俺たちの税金で飯食いやがって」っていう意味の意趣返しかな？

でも、どっちにしても違うよ。

いや、違いはしないけど、それは理由の２番目以下かな？

１番の理由はやっぱり、「嫌々やらされてることを、周囲の人に隠し続ける日常」が、あまりにもツラいからなんだ。

いや、もちろんマンパンの大魔王に奪われた【王たちの冠】は取り返したいよ。そりゃあね。

国家、国民は治安悪化を恐れ、元の平和なアナランドを取り戻したいと願っているし、僕だってその中の一人だ。

だけど、僕個人の偽らざる思いってものがある。

僕だって生身の人間だからね。

内示を受けるはるか前から、僕は仕立て上げられた英雄を演じなくてはならなくて、実はそれが何よりもツラかった。

国の切迫感より、自分自身の切迫感のほうがツラい。

「遠くの大事件より、自分の歯痛のほうが大ごと」っていうじゃないか。

ま、とにかく僕は心療内科へ行くよりも国を出るほうを選ぶよ。
さっき「ストレスから遠ざかるのがいちばん」とか格好つけて言ったけど、ホントは給料が低すぎて医療費に回す余裕がないんだ。

公務員共済の短期掛金（健康保険）に強制的に差っ引かれて、さらに高い医療費払うと、僕個人のサイフにとってはダメージがデカすぎだよ。

こういうこと言うとさ
「本当はお前の医療費は、お前が払ってる共済掛金よりずっと高いんだ。組合が負担してくれてるのに、お前は恩知らずだ！」
とか説教始める人が必ずいるけどさ・・

僕だってそういう理屈は知ってるよ。給与担当だった時期もあるからね。

でもね、庶民の暮らしは理屈じゃない。
いくら共済組合によって負担軽減されてるとはいえ、生活費のキャッシュフローを無視して「理屈が通ってるから貧しくない」なんていうことはあり得ないじゃないか。

公務員の給与は景気に左右されないっていうけど、それって好景気の時も置き去りにされるってわけだし、不景気の時に下げられるのは案外早いんだぜ。

だからさ、僕は任務どおりに出て行くさ。アナランドを