カントパーニに入るなり、突然行く手をさえぎられてしまった僕。
目の前に立った男は、小柄だががっしりした男だ。
あらためて顔をよく見てみると、この近くの林や渓谷の合間で、よく土木作業をしている男だった。
環境調査のフィールドとバッティングすることが多いので、お互いに顔は知っている。
「そこで止まれ! 見知らぬ者よ」
見知らぬ者?
コイツ、僕を知らないと言うか?
「カントパーニに何の用だ?」
おかしいな。
よく見ると、男の目は血走っていて、ただ事でない雰囲気を醸し出している。
僕は素早く記憶を巡らせてみた。
前回カントパーニを訪れたのは4カ月前だ。
そのときもこの男とは顔を合わせた。
野良でのあいさつを簡単に交したけれど、まあ普通の対応だった。
だが今日のこの変わりようは、いったいどうしたというのだろう?
この男の精神に病理的な事情で異変が起きたのなら話は別だが、そうでないなら、この4カ月の間に“情勢”が変わったことを意味するはずだ。
カントパーニに何らかの圧力がかかったとみて間違いないと思うんだよね。
肝心なのは、その圧力がマンパンの大魔王サイドからかかっているのか、それともフェンフリー同盟サイドからかってことだよ。
このカントパーニはマンパンからはだいぶ離れている。
だからこそ、どちらの陣営が手を伸ばしているかの見当が付けにくい。
僕にとっては本拠地から離れることになって危険ではあるけれど、マンパンに近ければ近いほど、フェンフリーサイドの陰謀や策略は施しづらくなるから、こういった場合の判断は楽になるんだけどね。
とにかく、どっちかわからないのがいちばんキツイ。
僕がこの任務に懸命に取り組む姿を示せば、フェンフリーなら僕のことを信用し、逆にマンパンだったら僕は警戒される。
逆に、任務に対して怠惰や反抗の素振りを見せればマンパンは僕に期待をかけ、フェンフリーはそんな僕の抹殺を狙うだろう。
どちらにせよ、試されてると思ったほうがいいな。
ここはまだ旗幟を鮮明にせず、どっちつかずな態度に徹したほうが無難なはずだ。
今本当にしたいのは、『質問』なんだけどね。
僕の目の前に立つこの男に「何かあったのか?」と訊ね、4カ月前とは豹変した態度の理由を、ぜひとも問い質したい。
けど、ここはヘタに情報を得ようとする冒険は避けたほうがよい。
いかにも旅人っぽく、装備品への関心を示しておくべきだろうな。
ちょうどよいことに僕は今、何よりも剣が欲しいんだ。それと食料ね。
この二つに対する質問をしていく中で、なんとか情報を聞き出したい。
僕は、初対面のフリをしているこの男の芝居に乗って、自分は商人だと名乗り、道具屋を探していると告げた。