まんまと山賊二人を撃退した僕は、カントパーニから無事に離れることに成功した。

せっかく村に入ったのだから、どうせなら食料を調達したかったんだけどね。

僕は背負い袋に入れてある、たった2食分の食料のことを考えた。

出張伺いに期間の日数を書けなかったことが原因で、僕には2食分の食料しか支給されなかったんだ。

忌々しい記憶がよみがえってくる。

 

大魔王から【王たちの冠】を奪い返す任務に「出張期間は○月〇日~×月×日」とか明記できるかっていうんだ!

会議に出席するのと違うんだぞ。

それから、年度末のお遊び出張(実質ただの観光旅行)なんかとは絶対に同列じゃあない。

 

「たとえ概算払いとはいえ、出張旅費が欲しければ、明確に旅程を書いて出せ。きちんと予定を立てれば、所要日数ぐらいわかるだろ、トーゼンな?」

会計担当者は、完全に上から目線で僕にそう告げた。

 

「公務の出張だろ? 『予定は未定です』じゃ会計検査院に説明できないだろ?」

この任務は領民のため、世界のためなんだけど、コイツの中では会計検査のほうがウエイトが高いようだ。

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まあ、わかってたけどね、コイツの頭の中ぐらい。

 

「お前はいつまでたっても国の仕事ってもんがわかってない。だから予定も立てずに『金くれ』ばかりが先に出てくるんだ」

規則墨守主義の公務員の中でも、マジでこの会計担当者は殺意をおぼえるほど頭が固い。

おまけにコイツは政治家とつながる資産家の家系で、お金に困ったことが生涯ただの一度もないという噂だ。

だから庶民感覚の僕らの言うことが、全く耳に入らない。

 

ぬけぬけと「金に困っている職員はいないと認識している」なんてうそぶくが、それは同じ階層のお友達のことしか頭にないからで、僕らみたいな下っ端のことは眼中に無いともっぱらの評判だ。

前も言ったけどさ、よりにもよって、なんでこんな奴が会計の担当をしてるんだ?

(第29話参照)

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出張伺いと旅費請求書の記載が曖昧だと主張し、とにかく下々の僕らへお金を出すことに対しては異様なほどに渋るから、仕方なく『期間2週間』と仮置きして書類を整えたときなんて、それはヒドイ言い草だったね。

 

「マンパンまでの行程に、こんな日数がかかるはずがない」

苦心して作成した書類は、一瞥しただけで突き返されたよ。

 

さすがにこのときは、この会計担当者にひょっとこのお面でもかぶせて、少しでもコイツをユーモラスにしてやろうと思ったけど、そんなことをすると民度を疑われるのでギリギリでやめたほどだよ。

 

結局、「当業務はマンパンへの移動を要するため当日中の完遂は困難」という文言だけが考慮されて、2日相当という扱いになった。

僕に渡された金貨20枚には旅費が込みになっていて、宿泊費のほかに日当が含まれている。

 

ただ、国内物価が通用しないから、僕レベルの職員の日当では絶対的に不足だってことで、あとは食料の現物支給ってことになったんだ。

 

この『日当と現物支給(食料)』ってのがまたムカつくじゃないか。

僕があまり「食料が必要だ」と言いすぎると、日当に上乗せするんじゃなく現物支給に偏らせて給与扱いにされかねない。

 

そうなったら課税されるし、標準報酬月額が上がってバカ高い共済掛金が、更にあがっちまう

 

総理府は「健保と年金財源が厳しい昨今、現役世代の負担増は避けられず、断腸の思いだ」ってセリフを、壊れたレコードみたいに繰り返して、そのたびに僕らは抗うこともできずに掛け金上昇を受け入れざるを得ない。

 

薄給なうえに、こういう有無を言わさぬピンハネが続いてるんだから、こんなことで等級まで上げられるのは絶対に避けたいよね。

だいたいさ、「お車代」に不必要な大金を包んでもらうのと違って、業務命令でする出張に、必要最低限の経費が欲しいって言ってるだけなのに、これはあんまりな扱いじゃないか?

 

・・っていうか、だからさ

有事なんだっての!

 

今、世界の平和が脅かされててさ、唯一の解決手段を実行中なんですけどなにか?

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