僕はそっと足を忍ばせて室内に入った。

ゴブリンと言えばたいていは大ざっぱな連中だから、少々のことでは目を覚ましたりしないと思うんだ。

すすだらけで真っ黒の寝顔を横目で見ながら、僕は部屋の中央に向かった。

 

しかし、考えが甘かった。

このゴブリンは、ゴブリンのくせに鋭敏な感覚を持ち合わせてるみたいだ。

僕は既に部屋の中央。

引き返して退出できない位置まで進んだあたりで、ヤツは頭をもたげてクンクンと臭いを嗅いだ。

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「おかしな臭いじゃ、よそ者だな!」

マズい。

ゆうべ狼男と戦ったとき、たっぷりと獣の臭いが僕の体に染みついててさ。

気にはなってたんだ。

でもまさか、ゴブリンに気づかれるほどだとは思いもしなかったよ。

 

ゴブリンは挑むように畳みかける。

「ここへ入ってきてはならぬ!」

 

たしかに僕はよそ者だけど、まずどこの誰かぐらい訊ねたらどうだ?

会議中とか作業中で部外者厳禁な状況ならともかく、オマエ寝てただけじゃないか!


まさか、勤怠をごまかして賃金を中抜きしてたんじゃなかろうか?

今、僕は『中抜き』という言葉には激しい憤りを感じる

今回の業務だって、大型予算の大半が中抜きされてデソシーとハンナという御用商人の懐に入ってるしね。

 

結局、現場の僕は食費も満足に与えられないまま、命がけの仕事をさせられてるんだ

いや、僕だけじゃない。

 

アナランドのミスで借り物の【王たちの冠】をパクられたせいで、世界中が危機に陥っている

既得権益ありきの発注を請け負ってずさんな管理をしていた商人ハンナと、とにかくそこへ予算を落とす画策をした連中がその責を負うべきと思っている領民たちは、はらわたが煮えている。

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政治家や宮廷官僚に象徴される上流領民が、この世界の危機を、あたかもボーナスステージであるかのように、次々と手前勝手な政策と予算をひねり出し、自分たちに都合の良い場所へ大金を流し込んでいる。

 

僕らのような下級公務員は、そのうまみには全くの無援で、負担ばかりが増えている。

でも正規公務員はまだマシなほうだよ。

クビにはならないし、減ったとしても賞与はあるし退職金も出る。

 

そうはいかないのが一般領民だ。

特に非正規の労働者。

彼らは毎日不安におびえ、爪に火をともし、我慢に我慢を重ねて生きている。

一般領民の経済的苦しみの対極にある「NAKANUKI」

 

これだけは許せない!

(殺るしかない)

僕は瞬時にそう判断した。

体力的には正直キツいんだけど、中抜きは許せないんだ。

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