今回の緊急補正予算中で最大の事業予算が投じられた【王たちの冠】奪還。
その命がけの任務を担当する唯一の国家公務員である僕に、なぜかその多額の予算による恩恵はまったく無い。
でもね、わが祖国アナランドの一部における賑わいは、僕の実情とかけ離れて派手さにあふれててね。
何やら「奪還した王冠の収納場建設」とか「王冠が王宮まで運ばれるルートの整備」なんて、捕らぬ狸の皮算用で大掛かりな設備投資がされてる。
なぜか、物作りの予算よりも関連事務手数料の予算額が大きいとか、莫大な物資が幽霊会社へ発注されたりして、何にお金をかけてるのかさっぱりわからないんだけどね。
他にも「GOGO奪還キャンペーン」とか「一人ひとりがあきらめない気持ち・爾霊爾霊」みたいな、任務とは全く無関係で凄まじく意味不明な商業イベントへ、領民の税金が大々的に垂れ流されている。
ちなみに『爾霊(にれい)』とは「爾<なんじ>の霊」の意味で、要は“あなたの気持ち”ということだ。
僕にはこの余計な重複が印象操作にしか思えない。
こういうプロパガンダ的なことを得意げに言い始める人は、一体この非常事態をどう捉えてるんだろう?
国家の危機、世界の危機だってのに、税金を自分の懐に入れ放題のボーナスステージが来たと沸き立つ連中が、【王たちの冠】奪還事業をいじくり回したんだ。
それでさ。
民間事業者へ発注された事業には、会計法第29条の3第4項が適用されたらしいんだよね。
つまり競争は行われずに、国の指定で発注されたってことだよ。
宮廷官僚と政治家の暗躍があったことはほぼ確定だね。
ちなみに、僕が任命された業務はれっきとした国家の仕事なんだけどさ、予算の9割5分は外注で民間請負なんだ。
もちろん僕の給料は役所から出てるけど、事業サポートの名目でハンナとデソシーという御用商人が、莫大な予算を分け合って受注してる。
僕の食料とか諸雑貨はハンナが負担して、デソシーは旅先の宿や飲食店の予約とかを受け持ってる。
僕がわざわざ旅先で剣を調達しなきゃならない意味が分からないよ。
それでね。
今アナランドでは治安の悪化が大問題になっててさ。
国外からの軍事攻撃はいつ火ぶたが切られるかわからない。
国内では不安の高まりから犯罪件数も増えてる。
まさに「内憂外患」って感じでね。
なのになぜか宮廷官僚たちは積極的に旅行を推進してて、なんでも「家にいると危ないから旅行に出よう」っていう破たんした理屈で、旅行代金の最大5割の還元を宣伝してるんだ。
このキャンペーンへの申し込み、なぜかデソシーの2階以外では受け付けないという謎の仕組みになっている。
離れた地域に住む人々は、いちいちデソシーの2階まで行かなきゃならないからさ。
もうそれ自体が小旅行になってるんだよね。
大げさに宣伝した割に、一部の人だけに有利な条件になってるって、不公平さが糾弾されてるけどお構いなしでね。
ただ、僕の家からはデソシーの二階が近かったんで、少ない割り当て予算の助けになるから、今回のカクハバード出張で利用させてもらおうと思ってたんだ。
なのにさ。
どういうわけか、カクハバード地区が対象除外になったわけだよ。
どうかな? この理不尽さ…
あの多額の緊急特別補正予算はどこへ消えたんだ?
少なくとも、この事業の任務担当者のために使われてないことはたしかだよ。
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