【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

カテゴリ: ソーサリーの基礎知識

ゲームブックをご存知の方は、どれくらいおられるでしょうか?

かれこれ40年ほど昔・・

ほとんどの家にコンピュータやゲーム機など無かった時代のこと・・
手に汗握る異世界冒険を楽しむといえば、ドラマや映画、小説などがもっぱらでした。

しかし、いくら感情移入できる名作も、所詮は一方的に見せられるだけ。

自分の判断で行動を選べるわけではない。

感情移入に比例して、欲求不満も高まってしまう。

 ゲームブックは、そんな欲求に応えるものでした。

『ロールプレイができる本』

初期のゲームブック作品には、ストーリーや説明を読み上げ、一定のルールに基づいてジャッジするゲームマスターが必要でした。

 プレーヤーはマスターの説明で状況を把握し、マスターが演じる登場人物との会話で冒険を進めます。

 イメージ的には「マスターが親、プレーヤーは子供たち」という図式で、現代ならボードゲームに近い感覚でしょうか。

 どちらにしても、一人では楽しめないのがゲームブックでした。

ボッチには優しくなかったのです。

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しかし、やがてゲームブックは進化していきます。


シーン(パラグラフ)をバラバラに配置することで、本自体がゲームマスターの役割を果たせるようになりました。

 ゲームブック自体は小説ですが、1ページ目から順に読んでいっては話がつながりません。

 現在のパラグラフ中で指示される番号へ移動すると続きが読めるという構造になっています。

選択肢が複数ある場合は、そこで物語が分岐します。

もしあのとき、こっちを選んでたらどうなってたんだろう?」

などと、選ばなかった選択肢に後ろ髪を引かれながら読める小説なんて、普通はありません。


これがゲームブックの楽しさ。ボッチでもプレイできるアナログRPGゲームなのです。


パラメータ設定とランダム要素も実装

ゲームブックでは、最初にサイコロで決めた自分の能力値が冒険のすべてを左右します。

旅先で起こる不確定要素もサイコロで決めることが多く、自分の判断だけでは結果が決まらないストーリー展開も随所に含まれます。


 能力値はどのゲームブックでもだいたい共通していて「技」「体力」「運」です。

作品によっては「使える魔法の数」みたいな独自要素を持つものもありますが、大体はこの3つの要素です。

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現代のRPG的表現でいえば・・
“技”とは「攻撃力」「防御力」「敏捷性」「巧緻性」といった要素のミックス
“体力”は「HP」
“運”はいわゆる「うんのよさ」です。

 これらの数値は、プレイ中の戦闘や危機回避などの駆け引き、又は運だめしのシーンで上下します。

 それによりゲーム難易度は大ブレします。

いずれのパラメータもよほどのことがない限り初期値を超えられません。


 また、装備品は背負い袋に入れることになりますが、有限性が描かれるシーンも多く、垂涎もののアイテムを発見した場合も、文中の指示しだいでは「他のアイテムを捨てるか、見つけたアイテムを諦めるか?」の選択を迫られます。

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やはり、ゲームブックといえば【ソーサリー】

ゲームブックはたくさん刊行されたので、作品の良し悪しはピンキリでした。
それでもテレビゲームが台頭するまでは、RPG市場では大きな存在でした。

無数に刊行されたゲームブックの中でも際立って秀逸で、未だ根強い人気を誇る『ソーサリー』


魔法使いの丘‾ソーサリー (1)

詳しくは下の記事に書いていますが、この中の第1巻【魔法使いの丘】をやってみようと思います(創土社版だと同じ作品が【シャムタンティの丘を越えて】というタイトルで発刊されています)。


シャムタンティの丘を越えて (Adventure game novel―ソーサリー)


blog.dbmschool.net

ゲームブックをプレイする様子をブログに上げる試みは、すでに多くの方がされています。

中には上の記事で紹介した「68さん」のように、初見プレイで死にまくりながら敢行するスゴイ人もいて、これは臨場感もあって読者も楽しめるのですが、私は知り尽くしたうえでプレイしてみます。
(ちなみに68さんのサイトはリンク集に貼ってますので併せてご覧いただくと、なお一層堪能できると思います。ぜひどうぞ)
 

主人公はアナランド国の国家公務員・『僕』。

『僕』はアナランド環境庁の職員で、官僚的力関係によるパワハラ的要因で、過重な任務をたった一人で負うことになり、ムリヤリの補正予算が中抜きされたショボい真水予算で過酷な旅に出ます。

実に腹立たしい限りで人権無視もいいところだけれど、公僕である『僕』にワガママは許されません。

ただ、『僕』は環境庁職員として各地の調査データを豊富に持ち、現場のことを徹底的に調べ上げていた。

 このような設定で『机上スタッフだが現場への理解が深い男が、現場へ出て力を発揮する様子』を、ソーサリーの冒険で示してみたいと思います。

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最初に簡単な説明を記しておきます。

ソーサリーの物語概略と、ゲームをして行くうえでの基本的な取り決めを先に知っておきたいという方向けのものですので、すでに知っている方や、あえて知らずに読みたいという方は、このカテゴリーを飛ばしてください

(ちなみに、私の勝手な創作部分が含まれていますのでご了承ください)


主人公の任務

ソーサリーの主人公の任務は「冠の奪還」です。

 「暗黒時代」と呼ばれた遠い昔のこと・・・

まだ世に知られぬ土地がたくさんある時代、地の果てにあるカクハバードと呼ばれる暗黒の地域が舞台となります。
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フェンフリーシャランナ王が発見した『王たちの冠』によって、世界は大きく進歩しつつありました。

 所有者に絶大な統率力と判断力を与える秘密の力を持つこの冠により、シャランナ王は自国の統率を完璧なものにしました。

 そして、覇権よりも文明世界の創造を求めた賢明なシャランナ王は、自国との友好を保てる民族国家を作ろうとしたのです。

そこで周辺国に対し、4年を期限として冠を貸し出すことにし、それらの国を巻き込んだフェンフリー同盟を推し進めました。

 

こうしてカクハバード地域を除く諸国に平和と秩序が広がり、とうとうアナランドにも貸し出しの順番が回ってきました。

それから2年のあいだ、アナランドは発展を続け、領民たちは冠の力とフェンフリー同盟の心強さを感じ続けた、輝かしい未来の姿を思い描いたのです。

 しかし、カクハバード統一をたくらむマンパンの大魔王によって、その冠が奪われました。

魔物や悪党の巣窟、マンパンからフェンフリー同盟への挑戦が始まっていたのです。

折悪しく、アナランドがその標的となり、まんまと『王たちの冠』は奪われました。

カクハバードは危険な場所ですが、まとまりが無くて強い力を持たぬ土地だった。

しかし、冠を手中にした大魔王が統治すれば、たぐいまれな統率力によりフェンフリー同盟を切り崩すことは必定。

俄然、世界に危機が訪れたのです。


冠を奪われたアナランドの名誉は地に落ち、国内の法や秩序が乱れてモラルも低下してしまいました。

国家間の信頼も薄れ、周辺国からの侵略までささやかれる深刻な事態に陥っています。

しかし、謎多き土地カクハバードには、たかが一国程度の軍隊を派遣しても生きては帰れず、大魔王を討ち果たすめどが立たない

唯一成功の希望を持てるのは、誰か一人がマンパンまで旅をして冠を取り返すことだ。

こうして、主人公の苦難の旅が始まるのです。

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ソーサリーでは本の冒頭に「プレイは『戦士』でするか『魔法使い』でするか?」の概説があり、どちらかを選ぶことができます。

戦士(初級)を選択した場合、戦闘は手持ちの剣を使った格闘になりますが、魔法使い(上級)を選択した場合は48種類の魔法を駆使して戦うことになります。


戦闘以外でも魔法を軸に据えた複雑な駆け引きが展開され、多彩な行動が可能になり、物語ははるかにワクワク感を増します。

 

ただし、よしんば『魔法使い』でのプレイを選んだとしても、48の呪文すべてをおぼえる必要はないと説かれています。

なんと6種類の基本的な呪文を知っているだけで、旅に出ることは可能だというのです。

ところが【呪文の書】は門外不出のため、一旦出発したら旅の途中で見ることができないという設定ですから、冒険が始まってからの見直しは許されていません。

 

即死エンドのトラップがたくさんあるゲームですから、そもそも一発クリアはまず無理な相談で、やり直しの都度「パラメータ再設定」や「呪文の覚えなおし」が行えるので、改めて知識を深めるならこのときしかありません。

実際にプレイした実感ですが、「基本的な6種の呪文」だけでは、クリアなど到底ムリな話です

6種のどれかが選択肢に出てくる回数が少ないうえに、この6種は唱えるのに他の呪文の倍以上の体力を要するので、ここ一番で使えないことがある。

それに、後半はほとんど選択肢に出てこないので宝の持ち腐れになります。

 

魔法使いは戦士よりも辛めのパラメータ設定なので、基本6種の呪文だけを覚えてゲームを開始することは「戦士の弱化版」で旅を始めるようなものかもしれません。

 「手っ取り早くプレイを始めたいし、ストーリーさえ知れればよい」というスタイルで楽しみたい方は別として、私は『基本呪文6種のみで開始』のプレイはおすすめしません。

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中抜き予算のあおりで食料は常に欠乏気味

出発時、主人公は2食分の食料を持っています。

たったの2食…

行く手には山岳や荒野が広がっているというのに?


実際には、国を出発して最初に通過するシャムタンティの丘にはいくつかの村があり、そこには宿屋や酒場などもあるのでお金を払えば食事はできるし、備蓄分を買うこともできる。

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丘を越えるとカーレという港街があるので、そこでも食事にはありつけます。

その先に広がるバクランド荒野以降こそ、備蓄食料は真に活躍することでしょう。

 

戦闘も起こる道中ですから、大量の荷物を背負っていては軽快さを欠くし、盗難や事故で失うと、回り回って敵側の勢力を増すことにもつながりかねません。

 主人公は魔王に狙われています。

みすみす魔王側に力を提供するようなマネは、是非とも避けたいところです。

 

持ち歩く物資は最低限に。これが鉄則です。

 

担当者予算が中抜きされ、ショボい真水金額になってしまったからではない・・・と信じたい。

 

『進撃』的な外壁に覆われる主人公の祖国「アナランド」

主人公が生まれ育ったアナランドをはじめ、「国」と呼ばれる勢力圏は、領地一帯をグルリと囲う外壁に包まれています。

 外との行き来の際は、数カ所に設置された門を通ります。
門の周囲には警備兵が配置され、怪しい者の侵入を防いでいます。

古代中国の城壁…というより、進撃の巨人の「ウォール〇と言ったほうが分かり易いと思いますが、外敵から国を守るために、巨大で堅牢な建造物が造られているのです。

 

しかし、アナランドに隣り合うシャムタンティの丘には、地続きで壁無しの村が点在します。

村単位の財力では外壁など作れないでしょうから、これは仕方ない。

でも、襲われないのでしょうか?


宿屋があるので、外部からの来報者を想定している
ことはわかりますが、よからぬ思いを抱く旅人もいるはず。

周辺の国同士がけん制し合い、犯罪が抑制されているのでしょうか?


シャムタンティの丘には、地理的にアナランドの勢力圏といえる村もありますが、だからといってすべてを壁で囲うのは負担が大きい。

さりとて、敵国がそこを前哨基地にした場合は厄介なことになります。

 

物語は「フェンフリー同盟」という、空前の規模の平和同盟が進みつつある時代です。

平和な時期だからこそ治安も良く、外壁の無い一帯にも村ができているのかもしれません。

アナランドは冠を盗まれてから平和的にもきな臭い状況に陥っているので、やがてはこれらシャムタンティの集落も敵国の標的になり、戦場になっていく可能性は否定できません。

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