【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

カテゴリ: 1日目(5月26日)

男は僕を、村の奥の大きな小屋へ案内した。

 

その道中でコッソリと、カントパーニにかかっていると思しき圧力についての事情を聞きたかったが、男は僕が目配せすると目をそらし、耳元へ口を寄せようとすると歩く速度を速めて近づくことを許さない。

 

今この瞬間も、どこかで見張りの目が光っているのだろう。

(マンパンか? それともフェンフリーか?)

 

どっちにしても、この男は自分や家族の命が的になっていて、僕に事情を話せばただでは済まないということだろう。

 

そのへんの容赦のなさでいえば、マンパンの大魔王のほうが相当えげつないことをしそうに思われがちだけど、必ずしも僕はそうは思わない。

 

今や『平和的民族国家の父』という名声が目の前にちらついたフェンフリーのシャランナ王だって充分怪しいよ。

 

たしかに若き日の彼の野望は、美しき理想国家の樹立だっただろう。

でもそれは、「十分な残り時間」を持っていたからこそ、純粋なものでありえたと思うんだ。

 

すでに老境に至ろうとしている、現在のシャランナ王の執着心。

そのことに関する情報もまた、僕の手元には集まっているんだ。

 

功に逸った老人権力者ほど恐ろしい者はないからね。

手放しで信用はできないよ。

 

だいたい【王たちの冠】を他国へ貸し出す期間を「1国あたり4年」なんて長めのスパンで指定したのだって、当時のシャランナ王が若かったからできたことだと思うんだ。

 

せいぜい最初の1、2カ国に貸してる間くらいは、まだまだ若い自分を満喫できたし、衰えなんてものが自分にやって来ることに現実感も無くてさ、さぞかしルンルン気分だったんじゃないかな?

 

でも、それ以降の国に貸し出してる頃には、徐々に自覚する肉体の衰えとともに「4年の貸出期間」が彼の気持ちを重くしていったことは想像に難くないよ。

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このままだと、自分の命あるうちには「フェンフリー同盟による世界平和の実現」っていう念願を見ぬまま、この世を終えなければならなくなるってね。

 

名声なんて、若いうちならば、たとえそれを失ったって、柔軟な考え方が出来る。

 

実力さえあれば「いっか別に。後でもっかい獲れば」って思えるしね。

 

でもシャランナはさ、「もっかい獲る」ための肉体の躍動が、知らぬうちに失せている事実を自覚したとき、背筋が寒くなったんじゃないかな?

 

フェンフリー国内では非公式に【王たちの冠】貸出年数の抜本的な見直しが議論されている。

そのことは世間には知らされてないんだけど、お城の出入り商人なんかは、耳ざといからね。

 

僕はアナランドへやって来た彼らからコッソリ聞いたんだ。

 

「4年という貸出期間は過分なものであり、借受国では期間満了を待たずに発展が鈍化している感が否めない。上昇の著しい期間を見越した効果的な冠の運用に向け、新たな貸出体制を築く必要がある」(フェンフリー有識者会議での発言より)

 

この発言を耳にした商人は、コーヒーのデリバリーサービスで議場に入り、配膳しながら聞いたという。

議事録にすらなっていないナマの発言だから、リアル感がハンパない。

 

ちなみにフェンフリー政府は、一般の領民に対しては「議事録は破棄した」って公表してるらしいけどね。

 

だからぶっちゃけ、今回のアナランドにおける【王たちの冠】強奪事件の黒幕は、ひょっとするとシャランナ自身でさ、実はマンパンの大魔王と組んで仕掛けた自作自演なんじゃないかって疑ってるくらいなんだ。

 

そうだとすると、アナランドはスケープゴートにされたってことになるね。

 

だいたい、きっかり2年で盗まれるなんて、考えようによっては完全に計画的だよね。

「次はマンパンに2年間貸し出す」とか、唇をぬぐって宣言するシャランナの顔が、かなりリアルに浮かぶんだ。

 

ま、そんなこと口が裂けても言えないけどね。

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結局まだ今の時点では、僕にもカントパーニに侵攻していると思しき勢力の見分けがつかないんだ。

案内の男の、幅広で筋肉質な背中を見つつ、僕は彼に従って村の奥へ進んでいく。

 

小屋に入ると、ここが倉庫だということがすぐにわかった。

環境庁の倉庫によく似ていて、オカムラのラックやコクヨのキャビネットがズラリと並ぶこの様は、倉庫以外にはまずありえない。

 

だが、それほど資金力のなさそうなこのカントパーニに、これほどの設備が整っていることに違和感が湧いてくる。

 

いくら宿屋を構えて旅行者を受け入れる村の商人つったって、1時間もかからん場所にアナランドというれっきとした国家があるわけだから、大口の商取引を希望する商人なら、皆そっちへ流れていく。

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カントパーニでそんなに儲けが出るような商取引は行われないはず
で、そういう野心のある商人は、早々にアナランドへ鞍替えして儲けているんだ。

役所出入りの商人にも何名かそういうのがいるよ。

 

(おかしいな)

 

訝しそうな表情が顔に出ないように気をつけながら倉庫内を見回している僕を、でっぷりとした倉庫番の男がジロリと睨んでいる。

 

コイツは4カ月前には近くの商店のオヤジだったはずだ。

 

ごうつく張りなところに変わりはなさそうだけど、少なくともこんな大量の商品に囲まれている様子には、どこか浮わついた落ち着きのなさを感じて僕も何だかソワソワする。

 

どうせコイツとの会話も神経使わないといけないんだろ?

知り合いだとバレないようにね。

 

僕を案内してきた小柄な男は、倉庫番のでっぷり男に、僕が物を買うためにここへ来たのだと説明し、すぐにその場を去った。

 

これ以上の僕との会話を避けたいんだろうね。

余計な発言は災いを生むからね。

 

純粋な初対面なら難なく立ち回れるだろうけど、本当は顔見知りである僕との会話は、特に気を遣うんだろう。

 

さて、次にババを引いたこの倉庫番は、やはり顔見知りである僕とどう対峙するか?

そして僕はこの男に対し、どういう会話をするのが無難か?

 

手に汗握る展開の商取引の幕が、今切って落とされた(なんてね)。

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案内の男が倉庫を立ち去って、太った商人と僕の二人だけになった。

 

他に誰も居ないのなら、話してくれないかなあ?

このカントパーニに何が起きているのかを・・。

 

僕が目で合図を送り、質問を口をしかけた瞬間、商人はまるでそれをさえぎるかのように「そこへ座れ」と命じてきた。

 

そして、僕が座るのと入れ違いのように立ち上がり、ずらりと並んだラックの列の間に入っていった。

 

それほど僕との会話を恐れているということか。

つまり、この倉庫内にもマンパンかフェンフリーからの使者が潜んでいて、この様子も監視されている可能性が高い。

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しばらく座って待ってみたが、商人は中々僕の前に姿を見せない。

 

かといって倉庫から出て行ってしまったわけじゃなくて、何やらゴソゴソと音を立てているから、この中のどこかにいることはわかる。

 

でもいったい、何をしてるんだろうか?

僕は少し緊張し、手に汗が滲んできた。

 

まさか出発して間もないこの段階で殺りにくることはあるまいと、僕は完全にタカをくくっていたんだ。

 

敵はあえて手を出さずにしばらく時間を置き、アナランド国民が「勇者の出陣」に沸き立つ時期をやり過ごすだろうと思ってね。

 

出発後、時間が経つにつれて、国内情勢は今よりももっと厳しくなる

そうなると領民たちは追い詰められて「勇者の帰還」を心待ちにするようになる。

僕を抹殺するなら、そこまで機が熟してからのほうが、より大きな失望感を与えられるでしょ?

だから、殺りにくるならもっと後半だとばかり思ってたんだ。

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けど、よく考えてみれば、派遣された使者を早々に始末してアナランドを追い詰めるという発想もなくはない。

 

【王たちの冠】奪還の担当者が僕に決まってから出立に至るまでに3か月以上かけたことは、いわばそれがアナランドの緊急事態への対応能力であるとも言い換えられる。

 

もしここで僕を殺った後、次の2人目が即座に派遣されるようならば、3か月もかけた僕のケースは初回だからこそで、もはや国内の体制は整ったと予想が立つ。

そこでまたモタモタするようなら、そんな程度の国だということだ。

 

さらに、初代担当者の僕と、2代目担当者の能力差を調べることで、アナランドの人材力も見えてくるよね。

つまり、ベンチ層の厚さが、さ。

 

戦いは始まっている。

机上での安易な思い込みは厳禁だったんだ。

 

何が起こるかわからない現場に正解はなく、責任だけがある

そして責任は、死ぬか切り抜けるかの2択でしか果たせない

 

出発間もないカントパーニで『実践の洗礼』を受けた僕に、生きて再びアナランドへ帰る日は来るのだろうか?

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僕の死角で蠢く、怪しい倉庫番の商人。

さっそく命を狙われる展開を迎えるか?

 

ヤバいかもな・・

剣の柄をを握りしめる僕。

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ホントはまともな剣を調達してさ、むしろこれからが本番になるはずの戦いに備えたいんだ、僕は。

なのにこのままじゃ、このなまくら剣で戦うハメになりそうだ

 

全体重を掛けて、ようやくカボチャが切れる程度のオモチャみたいな剣でさ。

 

カボチャを切った時だってさ、はっきり言って「切れる」というより「つぶれた」って感じの部分がかなり多くてね。

もしもカボチャの化け物を相手にする日が来たら、棒で殴ってるのと大差ない感じになるだろうね。

 

いずれにせよ、どうせ戦うなら先手必勝。

僕はそう考え、商人の居場所へ向かおうとしたけど、どう考えてもデカいラックが立ち並ぶこの倉庫の中は、剣での勝負には適さない。

 

絞め殺せるなら強引に行ってもいいけど、魔法使いである僕は、戦士と違って肉体の強さには自信がない

逆に、太って体格がよい商人に、返り討ちに合う危険さえある。

 

立ち上がりかけ、そう思い直して躊躇した僕の前に、商人はようやく再び姿を見せた

 

「この中から欲しいものを選べ」

台の上に、いくつかの品物が並べられた。

 

ハッ?

なぜオマエ基準?

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これだけたくさんの商品があるってのに、なぜわざわざ『僕が欲しい物』を、オマエがチョイスした中から選ばねばならんのだい?

 

僕はもう一度グルリと倉庫内を見回した。

これだけ豊富なラインナップを擁しながら、僕の前に出された品物は、たったの6つだ。

 

このオヤジが売りたいものを一方的に買わされることに、納得がいかない。

 

目の前の品を無視して商品棚のほうへ行こうとしたら、商人は恐ろしい形相で僕を睨み、前に立ちはだかった

 

立ちはだかられるのは、カントパーニへ入ってこれで2度目だ。

つくづく自由が許されないんだな。

 

4カ月前の環境調査のときとは大違いだ。

あの時はどこへ行こうが完全にフリーだったじゃないか。

 

もしかして・・

 

この倉庫、ひょっとしたら、アナランド攻撃用の兵器が隠されているのかもしれない。

貧相な村に不釣り合いな商品数だと思ったけど、大半は商品じゃないということか・・

 

これ以上揉めるとマズいな。

僕は瞬時に思い直し、おとなしく元の場所に戻った。

 

事態が既にそこまで逼迫しているなら、早いとこ任務を済ませてこの脅威を去らせたほうが良さそうだ。
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でっぷり太った商人のオヤジが、対照的に痩せ型な僕の前に並べた6つの商品はこれだ

 

・薬草

・鋭い広刃の剣(キタ━(゚∀゚)!っ!)

・笛

・不思議な彫刻のついた斧

・歯がたくさん入った袋

・美しく輝く宝石

 

やったぜ!

僕が今、最も欲する『剣』がラインナップに含まれてるじゃないか。

 

でもよく考えるとさ、剣を持ってる客を見て、それでもあえて剣を勧めるなんて、僕の手持ちの剣がひと目でわかるナマクラってことだよね。

 

たしかにこれは、アナランド環境庁の倉庫で箱に入ったままホコリをかぶってたアスクルのカタログ品だけどさ。

ナマクラ剣を手に入れた経緯

 

瞬時にそのことを見破ったか?

 

あるいは、この倉庫に大量に並ぶ商品群はアスクル在庫で、この小屋は物流倉庫契約を締結してるのか?

実は僕が持ってる剣の在庫もあって、だからひと目でわかるとか?

 

いや、べつにアスクルのカタログで売ってる剣をディスってるわけじゃないよ。

オフィスで使う剣と、戦場で使う職人用の剣とは造りが違うっていうだけでさ。

 

とにかく「アナランド攻撃用の武器」とか仰々しく考えちゃったけど、それは考えすぎなのか?

 

僕は、台に並べられた他の品も見ていった。

もちろん一番欲しいのは剣だけど、魔法呪文を唱えるときに使う媒体の道具も、できるだけそろえておきたいな

 

この中で魔法の道具に該当しそうなのは、薬草歯が入った袋かな?

ちゃんと確認しときたいんだけど、はっきり見せないんだよこのオヤジ。

 

となれば、値段を聞いて、懐具合と相談しなくちゃならない。

僕の手持ちは金貨20枚でさ。これは、僕の年収に近い額だ。

 

「これだけあれば1年は頑張ってこれるだろ? 途中で追加要求しても却下するからな」

 

僕が提出した概算払い申請書と引き換えに金貨を渡しながら、こんなことを言い放った会計担当を、僕はナマクラ剣でぶっ叩いてやりたくなった(どうせ切れないしね)。

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公務員宿舎に住んで普段の生活するわけじゃないんだから、年収分の現金さえ渡しとけば1年過ごせるだろとか、命がけの任務で気が立ってる奴に無神経なこと言うなよ

これだから机上の目の前30センチしか視界が開けてないヤツは困る。

  

それはともかく、各商品の値段を聞いて、もし値切れるなら攻めていかなくちゃね。

金貨1枚安くできるなら、半月分くらいの収入をセーブできる計算になるぞ。

あれ? 僕もつい目の前30センチ思考に陥ってしまった。


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