勇者への期待値が高まった、って言ったけど、それは国家が危急存亡の時だからだ。
【王たちの冠】の場合にはさらに意味が大きくて、フェンフリー同盟の、ひいては世界が危急存亡の時にある(引き起こしたのはアナランドだけど)。
そんな折に国民を救う義務は、国民が納めた税金で食っている国家の人間が果たすのが本来の姿だ。
【王たちの冠】の場合にはさらに意味が大きくて、フェンフリー同盟の、ひいては世界が危急存亡の時にある(引き起こしたのはアナランドだけど)。
そんな折に国民を救う義務は、国民が納めた税金で食っている国家の人間が果たすのが本来の姿だ。
今は誰がどう見たって有事だ。
戦争に匹敵する事態の中で、国民の生命財産が大きく喪失しつつある。
ここまで深刻な事態に陥ると、“自助”だとか“共助”なんて、力なき者たちが歯ぎしりして頑張ったって、まとめてペシャンと押しつぶされて、あっさりジ・エンドになりかねない状況なんだ。

だからこそ、国家および国民救済の行為を直接担当するのは、国家施策の実施部隊である行政が、まずこれに任じなければならない・・・
と、こんな絵図がお城の政治家と宮廷官僚たちの筆によって描かれ、下級役人がひしめく官庁街におろされてくると、公僕である僕たちは、甘んじてその示唆するところに従わなければならない。
それでどうなったかというと、この問題への対処は、ひとりの担当者によって為されなければならないという結論が出たんだ。
アナランド国軍によるマンパン砦への進行は行わないという決定になったからだ。

ちなみに細かいこと言うけど、上で言ってる「~によって為される」の“為す”は“業務担当者”に当てられた、単なる作業を指し示す文言であり、「事業を成し遂げた」の“成す”は、彼ら宮廷官僚の手柄として使われるアンタッチャブルな文言だ。
この使い分けができない役人は出世できないよ。
さて、どんな利権が絡んだのかは、僕のような下っ端には分からないが、【王たちの冠】強奪を行ったマンパンの大魔王を、武力で屈服させる方針は無くなった。
今回、大事な借り物の冠を盗まれたアナランドに、貸主であるフェンフリー同盟の盟主・シャランナ王の態度は冷ややかだ。
シャランナは平和な民族国家の成立を目論んで、虎の子の冠を諸国に貸し出し、長い年月をかけて同盟を拡大させてきた。

実際、そのおかげで世界は平和になりつつあった(今回の盗難が起きる前まではね)。
しかしそれは、所有者にたぐいまれな統率力と判断力をもたらす【王たちの冠】が、フェンフリー側にあってこそ可能なことで、悪意に満ちた大魔王が危険な土地・カクハバードを統一した暁には、積極的に侵略の姿勢を採りはじめることは疑いもない。
つまり、【王たちの冠】を奪われたアナランドの失態が、どれほど重大なものであるかは明らかだ。
どう責任を取るつもりか、世界中から厳しい視線が注がれている。