【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

カテゴリ: 国の事業の裏側(出発前)

勇者への期待値が高まった、って言ったけど、それは国家が危急存亡の時だからだ。

【王たちの冠】の場合にはさらに意味が大きくて、フェンフリー同盟の、ひいては世界が危急存亡の時にある(引き起こしたのはアナランドだけど)。

そんな折に国民を救う義務は、国民が納めた税金で食っている国家の人間が果たすのが本来の姿だ。

今は誰がどう見たって有事だ。
戦争に匹敵する事態の中で、国民の生命財産が大きく喪失しつつある。

ここまで深刻な事態に陥ると、“自助”だとか“共助”なんて、力なき者たちが歯ぎしりして頑張ったって、まとめてペシャンと押しつぶされて、あっさりジ・エンドになりかねない状況なんだ。
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だからこそ、国家および国民救済の行為を直接担当するのは、国家施策の実施部隊である行政が、まずこれに任じなければならない・・・

と、こんな絵図がお城の政治家と宮廷官僚たちの筆によって描かれ、下級役人がひしめく官庁街におろされてくると、公僕である僕たちは、甘んじてその示唆するところに従わなければならない。


それでどうなったかというと、この問題への対処は、ひとりの担当者によって為されなければならないという結論が出たんだ。

アナランド国軍によるマンパン砦への進行は行わないという決定になったからだ。
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ちなみに細かいこと言うけど、上で言ってる「~によって為される」の“為す”は“業務担当者”に当てられた、単なる作業を指し示す文言であり、「事業を成し遂げた」の“成す”は、彼ら宮廷官僚の手柄として使われるアンタッチャブルな文言だ。
この使い分けができない役人は出世できないよ。


さて、どんな利権が絡んだのかは、僕のような下っ端には分からないが、【王たちの冠】強奪を行ったマンパンの大魔王を、武力で屈服させる方針は無くなった。

今回、大事な借り物の冠を盗まれたアナランドに、貸主であるフェンフリー同盟の盟主・シャランナ王の態度は冷ややかだ。

シャランナは平和な民族国家の成立を目論んで、虎の子の冠を諸国に貸し出し、長い年月をかけて同盟を拡大させてきた。
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実際、そのおかげで世界は平和になりつつあった(今回の盗難が起きる前まではね)。

しかしそれは、所有者にたぐいまれな統率力と判断力をもたらす【王たちの冠】が、フェンフリー側にあってこそ可能なことで、悪意に満ちた大魔王が危険な土地・カクハバードを統一した暁には、積極的に侵略の姿勢を採りはじめることは疑いもない。

つまり、【王たちの冠】を奪われたアナランドの失態が、どれほど重大なものであるかは明らかだ。
どう責任を取るつもりか、世界中から厳しい視線が注がれている。
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フェンフリー同盟諸国をはじめ世界中の国々が
「アナランドは世界の宝、世界の未来の象徴である【王たちの冠】を盗んだマンパンの大魔王に、いかなる制裁を加え、シャランナ王に借りた冠を無事奪還するか?」に耳目をそばだてている。

それなのに、その大魔王に挑まないとアナランド政府が決定したとき、僕は背筋がうすら寒くなる思いがした。

フェンフリー同盟諸国はこの姿勢をどう見ることだろう?

宮廷官僚によって行われる関係省庁連絡会議の内容は、同じ公務員であるだけに僕の耳にも入ってくる。

「要は、冠を取り返せばよいのであり、大魔王を倒すのが目的ではない。軍隊の派遣は目的に沿ったものとは言い難い」
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オイオイ!
取り返せる望みが薄いからこそ武力制圧の正当性が高まってるというのに、なぜ話を逆進させた!?

しかし彼らはこのズレまくったコンセプトを、あたかもトレンドにピッタリな名案のように強行した。

そしてこの決定がなされたときから、フェンフリーをはじめいくつかの国に打診していた援軍要請も一切行われなくなったんだ。

論旨のすり替えはいつものこと。
一部宮廷官僚の独善が国民総ツッコミの対象になるおバカ政策になってしまうことも、官庁ではあり得ることだけどさ・・

だから“有事”なんだって!
こんなときに平和ボケしたセオリーを適用するなって!

ホラこうなった。ニュース見てごらんよ
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各国では「戦う意思を失って膝をついた状態」か、「やけっぱちになって開き直った状態」とみるかで意見が分かれている(フェンフリータイムズ)。

主要6か国の対アナランド輸入依存度が急速な後退傾向(デイリーカーレ誌)。

アナランドを準敵性国家と認識したいくつかの国が、危険要素は早めに潰しておくべきと主張し、国境付近への兵力集中が行われつつある状況(ラドルストーン日報)。

ちなみに、我が国でカクハバード側とは正反対にある安全なはずの南西地区で、しきりに前哨基地が強化されているのはこのせいだ。
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世界中から警戒されてる国の領民の気持ちってわかるかな?
僕は、まさか自分の国がそんなことになるなんて、思ったこともなかった。

各国報道に見られるとおり、アナランドはフェンフリー同盟諸国から疎外され、もはや追い詰められているのだけれど、政治家や宮廷官僚はどこまでリアリティを持ってこの事実を捉えているのだろう

だいたい、「冠を取り返す」と言ったって、マンパンが交渉に応じないことはたしかだよね。
話し合いに応じるような相手なら、フェンフリーは平和的に冠を貸す形をとっているはずだからさ。

事態が煮え詰まってきて、国の具体的な機能を使って“仕事”をする段になると、政治家たちは直接的な役に立たない。

こうなると事態は宮廷官僚たちの手に握られる。
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実はこの連中だって前線の実務のことなんかまるで分かっちゃいないけど、政治家から見れば立派な『専門家』ってことになる。片腹痛いけどね。

それで、政治家先生たちが拠り所にする『専門家先生たち』がどうするのかと見守っていたら、最後はなんと「公務員に奪還の辞令を交付して命令する」という謎の結論になった。

なんだ、そりゃ?

だいたい“公務員”って言ったって、じゃあそれはどこの省庁が担当するのかと僕らは思っていたが、宮廷官僚の頭は僕らのような官庁街の下っ端公務員の想像のナナメ上を行った。

「どの組織の所掌が相応しいかを検討する」じゃなくて、「とにかく誰かに担当させる」ということだけが先に決定したんだ。

オイオイ! 辞令の使い方間違ってるぞ宮廷官僚!
だいたい「誰か」って誰だ?

冠が盗まれたときの警備担当が任命されると思っていたら、そうじゃなかった。

どうやら警備担当はハンナという商人が請け負っていて、以前から政治家とズブズブなところだから、真っ先に責任問題から逃れることに成功したというのがもっぱらの噂だ。

結局『箱モノ作って運営は丸投げ』といういつもの図式が少し形を変え、『事業名と予算額を決めて担当者へ丸投げ』というスタイルを採ったようだ(ただし『予算』は現場に渡さない)。

しかしこれはあんまりじゃないかな?
非現実的もいいところだ。

【王たちの冠】を取り返しに行くのは、軍事組織でなく個人でなければならない。
マンパン砦へ行き、大魔王を欺いて、奪われた冠を再びアナランドへ持ち帰る

理屈を言うだけなら、実に簡単なものだ。

そして、宮廷官僚とは現場のオペレーションを一切顧みない連中なので、あとは背後にいる政治家の権威を笠に着て、官庁街の下級公務員に通達すれば一仕事完了となるんだよね。

たとえそれが、単にこの人たちの自己満足だとしても、ね。
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我が国の貴重な資源を奪い、恫喝して「これは自分のモノだ」と居直る国家、マンパン。

そんな、叩くべき敵国に媚びを売る政治家なんて、ただのひとりだっていない、きっと。
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だからその意を汲む宮廷官僚の姿勢は、断固戦うための具体的施策を打ち出すものであり、それを受けた全官庁は、対マンパン報復策へ向けた体制に移行するだろうと、誰もが思っていた。

それが・・・

目的はシャランナ王から借りた【王たちの冠】を、マンパンの大魔王から取り戻すことであって、マンパン砦を滅ぼすことではない。
冠を持ち帰るだけの平和的任務であり、担当者一人を向かわせればよい。

という、具体策のイメージゼロな、骨抜き方針が各官庁へ通達された

ムチャクチャな理屈で「じゃぁお前らがやってみろよ」と言いたいレベルだけど、それはさておくとして、本来この発表内容は絶対に『極秘事項』だと思う。

どこに他国スパイの目が光っているかわからないからね。

特に、冠を盗んだ大魔王陣営では、被害に遭ったアナランドが奪還や報復の企てをすることくらい百も承知なわけだから、こちらの情勢を知るために、アナランド国内に大勢の工作員を紛れ込ませているだろう。

となれば、こんな任務の内容は、絶対に知られちゃいけないよね。

たった一人を迎え撃つだけで良いことが分かれば、誰がやってくるかさえ把握しておけば、大魔王にとってはいくらでも手の打ちようが考えられる。

たとえば、担当者を買収することも可能だ。
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忠誠心満載で戦いにも強い勇者なら、面倒だからと暗殺される可能性が高いが、多少のボンクラとか職場で浮いてる嫌われ者とかだったら、任務担当者を抱き込む方が魔王陣営も消耗が少ないだろう。

わざとノロノロ行動させて時間稼ぎするとか、偽物の冠を持ち帰らせて、城門を開けた瞬間伏兵を突入させるとか、「買収」っていうトピックだけで複数のバリエーションが思いつくわけで、とにかく魔王陣営に計画を知られて良いことは何もない。

だから、国外はもちろん、自国民の目をも欺いておくのが当然だと思う
ニセの動員令を発して軍勢を集めるふりをしても良いし、とにかく『こっそり盗みに行く』なんておくびにも出さない配慮が必要だ。

官庁へ通達された時点では、まさか自分が担当するとは思っていなかった僕でも、それは常識として当然守られると信じていた。

領民への隠し事は日常茶飯事だからね。

常日頃、どれだけ糾弾されても意地でも情報開示しない宮廷官僚は、つねに1つのロジックを振り回す。

「国民はバカで下等な生き物なので、何かというとすぐパニックを起こすから、重要なことは知らせずにおくべきである」と

いつもどおり・・いや、いつもに輪をかけて、出来れば200%くらいの精度で「重要なことこそ国民にひた隠す」という例のヤツを、ここでこそ発揮してくれ、と。

で、分かってると思うけど、また連中は僕の想像のナナメ上を行った。
全国に向けて記者会見しちゃったんだ。今回の計画を。
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【王たちの冠】を奪還するために軍隊を動かさず、たった一人の担当者をマンパンに差し向けるという国家機密を、あろうことか大々的に宣伝したアナランド政府。

となれば次に起こるのは、救国の使命に任じるヒーロー候補は誰かという憶測と共に、やれ担当者の資質だとか任命責任とかが取り沙汰される

そのほかにも、任命の権限は大臣に任されてるけどその理由は説明の必要があるだとか、国内世論が沸騰して政治家や宮廷官僚に殺到した。

たちまち狼狽の極に達する宮廷官僚たち。

ちなみに、彼らの狼狽沸点は、バターが溶けはじめる温度より低い

「国民はすぐにパニックを起こす」とうそぶいている宮廷官僚たちこそ、何かというとすぐパニックを起こすんだ。

彼らには、机上のバーチャル以外のすべてが『非日常』なんじゃないかなと思う。

パニクってヒステリーを起こしては愚かな決定をし、ツケを国民にまわすのも、通常営業レベルだしね。

国中に自分たちのパニックを感染拡大させて惨憺たる状況を作り出しながらも、給料はしっかり保証されて食い扶持だけは失わぬ彼ら(ま、僕ら下級公務員もそうだけど)には、『マッチポンプ』という言葉がお似合いだ。

そうやって国民を右往左往させ、阿鼻叫喚の巷を見下す儀式は、彼らの必須事項だ。
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『自分たちよりも悲惨な者』を知覚したときに、優越感と共に落ち着きとプライドを取り戻す性質があるからだ。

嫌味な性質だね。ほんとに。

そして、悲惨な状況に陥れて苦しむ国民を見て彼らは言う。

「ホラ見たことか。やはり国民はバカで下等な生き物だ。今回もまたこんなにパニックを起こしている。やはりこの国はオレたちのような賢才が引っ張らねばならないのだ(ウンウン)」

お城の中では、こんな理屈が大手を振ってまかり通る。

宮廷には彼らの世話役として庶務系の事務官が数人、官庁街から配属されるけれど、そのポジションは別名【役人の墓場】と呼ばれるほど離職率が高い。

宮廷官僚たちは口をそろえて「重責に耐えられないからだ」と言うが、実際には「バカのお守りに耐えかねて、人としての尊厳を守るために」辞めていく者がほとんどなんだ。
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