【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

カテゴリ:1日目(5月26日) > カントパーニ

官庁の二極化で弱者側にいるムシャクシャ感とともに、カントパーニ村に近づく僕。

シャムタンティの丘のふもとに位置するこの集落は、左右に建ち並ぶ小屋の真ん中を、一本の道が真っ直ぐに通るという分かり易い造りになっている。

村人たちに全身をさらしながら中央通りを歩くのと、脇道に逸れてコッソリ進むの二択のどちらが良いか?

今が平和な時代で、しかもここが治安の良い地区ならもちろん前者だが、今は微妙だ。

残念ながら今は危険な時代。
マンパンからの刺客がどこに隠れているか危ぶまれる現状だ。


ここで進路を変えて誰にも見つからないよう、獣道伝いにカントパーニをやり過ごすのも賢い選択といえる。

なんたって、まだ出発したばかりで食料はたっぷり…いや、2食しかない

携えている剣だって、環境庁の倉庫に眠ってた一般品だ。

たぶん、年度末の予算消化のために数字合わせで買った、アスクルのカタログ注文品だと思う。

特に用途があって買ったわけじゃないから、納品されたものをそのまま倉庫におっぽらかしてあっただけに違いない。
箱から取り出した形跡がなく、ご利用ガイドも全く人の手が触れた跡がついていなかったんだ。

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僕はこの、誰も使う予定のないガラクタ引っ張り出すために起案文書を作り、べたべたハンコを押されて返ってくるのを2週間くらい待った。

ようやく戻ってきた決裁書類に添付していた案文と、原本を重ねて割り印し、会計課の用度係へ提出して、やっとのことでこのガラクタを手にしたんだ。

切れ味は、全体重をかけるとようやくカボチャが切れる程度で、これでは敵と戦っても「斬る」というより「殴る」感じになることだろう。

敵に斬撃を与える武器なのに、最初に与えるのは「ショック」ってことになりそうだ(痛ぇ!アレ、斬られてねえ?ってなる)。
で、その後「なんだそのナマクラ」と嘲りを与えられるのはこっちって寸法だね、これは。

「だって、年度末予算で買ったアスクルの剣だからさ」と言って通用するのは同じ公務員同士だけで、世間から見たら、こんな剣で戦おうとするのはバカの所業でしかない。

かといって研ぎに出す費用は出してくれなかったし、僕の経済力では家にある茶碗の底でゴシゴシやるのが精いっぱいなんだけど、毎日残業続きでそれをする時間も取れなかった。

早めにどこかでまともな剣を調達したい

この情けない装備で出発するハメになったのは、会計課からの前渡金(仮払金)の手続きがモタモタしたせいだ。

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国境へ向けて発つ日の夕方になって、ようやく支給されたんだ。
申請はかなり前に済ませてたんだよ。

だから、ホントは朝一で出発するつもりだったのに、それ待ちで夕方まで拘束されててさ。

自分の席にいると、昨日までの担当業務が容赦なく振られるから、それを避けるためにブラブラしてると「何オマエ、まだ行かないの?」ってツッコまれる。

夕方まで、それを何人に言われたことか。

内示出てるんだから、もっと早く用意しろよ。
おかげで、旅に出てから色々な支度する羽目になったんだぜ。
これもまた、僕を苛立たせる一因になっている。

えっ? いちいち文句が多いって?
そう言わないでよ。
公務員だって、なんでも長いものに巻かれるタイプだけじゃないんだ。

たぶん、今回みたいな任務は特にさ、ひねくれて文句たれて、独自の尺度で適宜に自分なりの絵を描くタイプのほうが、きっとうまくいくと思うよ。

なんせ、大本営の命令がムチャクチャだからね。
裸一貫で竹ヤリ持って要塞に突っ込めいうぐらいの命令に、文句も言わず従う勇者じゃ秒殺されるよ、きっと。

無責任な無茶ぶりには、無法者がお似合いだ。

何かっちゃぁ文句をたれる僕は、だからこそこの仕事の担当に就かされたのかもしれない。


だとしたらそれはそれでムカつくけど、もしもそんな評価を受けているのなら、公務員としての今後の身の振り方には要注意だ。組織内遊泳にはね。


ただ少なくとも今は、このカントパーニって村をどう抜けるかを思案しなくちゃならない。

 

まず、アナランドを取り巻く外界の環境を考えに入れとかないとね。

役所の中みたいに、規則や不文律に囲まれた「自分たちルール」の物差しが通用する世界じゃないからさ。

 

こういう、自分勝手な常識が通じない外界に身をさらすときには、組織ボケしたベテラン勘は全く役に立たない・・どころか、命とりなほど邪魔なものだって気づくのが、なによりも大事だ。

 

さもないと、出発したばかりだってのに、さっそく道を誤る危険があると思うんだよね。

「道を誤る」って「迷子になる」って意味じゃないよ。
さっそく三途の川に行き着いちゃうって意味だからね。

 


下級公務員の中でも特に変わり者の僕は知ってるんだ。

カクハバードとフェンフリー同盟から、今のアナランドがどう見られてるかをね。
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これはアナランドにやってくる商人たちから地道に聞き取った情報だ。

 

俄かには信じられないけど「今の状態ならそれもそうか」と思えるまことしやかな噂が、カクハバードとアナランドを行き来する商人たちの間でささやかれているんだ。


たとえばこのふたつの噂。


・こうなったらアナランドはむしろ、マンパンの大魔王と組んで基盤を固めつつ、フェンフリー同盟を切り崩す方向へシフトチェンジしないと、今後、国としての体を成さないようになる。

 

・一枚岩に見せているが、実は国内世論は割れていて、フェンフリーもそんなアナランドを危ぶんでいる。

両国の関係が修復できなければ貿易が回復せず、戦時経済に疲弊したアナランド財界は政権を見放すだろう。

 

と、大きく分けると「アナランド謀略説」「アナランド崩壊説」に集約されるんだけど、各国の情報が万遍なく入ってくる商人たちの視点は、ディティールのバリエーションが実に豊富だ。

 

もちろん「アナランドは元どおりフェンフリー同盟に復活する」っていう意見もあるけど、それは希望的観測の域を出ないマイノリティで、この情勢下では平和ボケと揶揄される。

 

「平和的解決に向けた国家間の交渉を」と言い騒ぐ連中もいるけど、冠を悪用しようとするマンパンの大魔王は、現時点ではカクハバードの支配を狙っている段階で、国家を統治しているわけじゃない。

だから国益をエサに冠の返還を交渉しても意味がないという見方が一般的だ。

 

それから、「この地帯への侵攻については感知しない」と軍事面における一定の線を引き、相手の自制を期待するやり方も、鼻で笑われて終わりだろう。

 

万にひとつでこれが成功すれば、領土協定を結んだうえでマンパンを新興国として厚遇する姿勢を見せ、国交を開始することができるかもしれない。

 

そうすれば、よしんば大魔王が【王たちの冠】を手放さないとしても、なんとかアナランドの借り受け期間終了時にはフェンフリー国へ返還するよう根気強く外交を展開し、フェンフリー同盟諸国の了解を得ることで、2年間は生きながらえることができるかもしれない。

 

しかし大魔王が「お前たちにそんなことを言われる筋合いはない」と言えば一瞬で崩れ去る

そのほうがよっぽど現実的だ。

 

それに、アナランドが大魔王に一定の権利を許可する旨の声明を出すためには、当然フェンフリー同盟諸国の了解が不可欠だけど、諸国から「みなし敵国」として警戒され始めたアナランドに、もはやそれを望むすべはない。

 

だから「むしろ大魔王と組む」みたいな噂のほうが、よほど現実味を帯びてささやかれるんだ。

 

これが国外の偽らざる本音だと、僕は思うんだけどね。

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今のところフェンフリーのシャランナ王は、あからさまにアナランドを敵視した態度を見せてないけれど、同盟国のいくつかにけん制させているというのが、商人たちのほぼ一致した見方だ。

 

今もアナランド南西部は隣国から軍事的な圧力を受けてるけど、原因はそこにあるらしい。


【王たちの冠】を手にしながらも覇権を目指さずにやってきた平和主義のシャランナ王だけど、ちょっと様子がおかしくなってきたみたいだね。

なにせ、冠を奪われて身内から敵の疑いが発生(アナランドのことだよ)したわけだからさ。

気持ちはわかるよ。なんとなくね。

 

こうなった以上、平和のための戦いを起こすほかないのでは?というのが、カクハバードでのもっぱらの噂でさ。

 

結局は、シャランナが味方諸国を率いる覇王として、戦乱を起こすかもって懸念されてるんだ。

あえてアナランドを敵視しないのは、むしろ激しい戦いの伏線じゃないかってね。

 

ということはだよ。

 

すでにフェンフリーの前哨基地がアナランド近辺に設置されて、国外にある集落は監視地区になってるんじゃないかっていう想像は、考えすぎかもしれないけど、一応頭の隅に置いとくべきじゃないかな?

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万一僕にマンパンへの通敵行為が見られた場合、僕は反逆者としてアナランドに処刑されるよりも早く、今はまだ味方のはずのフェンフリーに抹殺されるかもしれないってことだ。

 

だからって任務どおりにマンパンを目指せば、大魔王が僕の命を狙うんだけどね。

 

さて、そこまで考えに入れたうえで、このカントパーニの本通りを、まっすぐ進むか迂回するか?

 

エッ? そんな選択肢がどこに存在しているかって?

 

(メタ発言)ソーサリー第1巻「魔法使いの丘」のパラメータでは、ここはそのまま村に入る文章になっているので、あれこれ考えたりせずにカントパーニへ足を踏み入れることになります。

 

だから言ったろ? 僕は変わり者なんだ。


敷かれたレールの上、誰かが決めたルールの中での優等生なんてつまらない。

 

僕は、勝手知ったるカントパーニへ堂々と踏み込むことにした。


理由はこの、交通誘導用のライトセーバー程度のショボい剣をサブに回し、使える剣を手に入れたいからだ。

 

武器屋とか道具屋とか、とにかく商店を見つけたら飛び込むぜ! 取引だ!

 

(ふたたびメタ発言)原作はあくまでも「主人公は国の外に出たことがない」という設定です。カントパーニのことも何も知らないのですが、この物語では「データベース利活用論者」として、すでに情報を得ている設定で進めます。

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虎穴に入らざれば虎子を得ず。

 

カントパーニの村の入り口(といっても、道沿いに小屋が並ぶ一帯を村と呼んでるだけから、明確な“入口”なんてないけどね)でいったん仁王立ちし、行く手に佇む大小の小屋を睥睨するように見渡してから、僕は歩き出した。

 

通りには人っ子一人いないけど、小屋の中からの音や気配で人が居ることはわかる


いくつもの視線がじっと僕に注がれてることもね。

 

アナランドにほど近いこの地域の情報は、役所出入りの商人から聞くだけでなく、僕自身が環境調査業務で実地に訪れたことがあるからよく知ってるんだ。

 

日帰りできる距離だから、さすがに泊まったことはないけどね。

でも、宿屋で昼ご飯を食べたことぐらいはあるよ。

 

「宿屋の食堂のレジ前に携帯食料が置いてあるはずだから、品切れにならないうちにそれを買って・・・いや、それともまずは商店へいくか?」

 

先に剣を物色し、もしそこに食料も売ってればついでに仕入れときたい。

 

というのは、剣を買ったついでなら、レジ袋はおまけでくれそうな気もするけど、宿屋で食料だけを購入したら、絶対にレジ袋は有料になるはずだからね。

 

僕は今ザックを背負ってはいるけどさ。

今後いろんなものを入れるだろうから、やっぱり食料だけは分けときたいんだ。

 

初期装備として支給されてる2食分の食料は、役所の紙ファイル(A4サイズ10ヶ入り)を包んでたビニール袋に押し込んでるんだけどさ。

 

小さいからすでに容量オーバーでね。


口が締まってないし、材質は薄っすいからすぐに破れちゃうと思うんだ。

 

これだって、持ってくるのに庶務係とひと揉めしたんだよね。

 

「まだ4冊残ってるから、新しい10冊の封を切られると困るんですけど」


「だって食料入れる袋がないんだよ。紙ファイルなんてどうせすぐハケるじゃん? 封切り在庫が一瞬だけ14冊になるけど、ワンチャンこれで行かしてくんない?」


「残りが2冊にならないと、新しいのは開封しちゃいけないんですけど」


「知ってるよ。だから頼んでるし」

 

僕が以前、別の局で庶務担当してたときは、このぐらいの融通は余裕で利かせてたから、ここでも当然楽勝と思ってたんだけど、僕コイツになんか悪いことしたっけか?

 

結局、使いもしない紙ファイル2冊の払出申請をやって、封切在庫をきっちり2冊まで落としてから、あらためて「そのゴミちょうだい」とお願いしてようやく手に入れたんだ。

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ゴミを手に入れるために調えた申請用紙は、ゴミ以下の廃棄物ってことかな?

 

いや。ゴミ以下だったのは、これに費やされた労力のほうだね。

まったく、つまらぬものを斬ってしまった ゴミ以下の人件費を浪費してしまった・・。

 

そんなくだらない記憶をよみがえらせながら歩いていると、とつぜん、ひとりの村人が小屋から出てきて目の前に立ちはだかった。

 

その唐突さが、頭に浮かんだ出来事のショボさに対する叱責に思えてしまい、僕は必要以上に狼狽してしまった。

 

(なんだよ、いきなり)

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カントパーニに入るなり、突然行く手をさえぎられてしまった僕。

 

目の前に立った男は、小柄だががっしりした男だ。

あらためて顔をよく見てみると、この近くの林や渓谷の合間で、よく土木作業をしている男だった。

環境調査のフィールドとバッティングすることが多いので、お互いに顔は知っている。

 

「そこで止まれ! 見知らぬ者よ」

 

見知らぬ者?

コイツ、僕を知らないと言うか?

 

「カントパーニに何の用だ?」

 

おかしいな。

よく見ると、男の目は血走っていて、ただ事でない雰囲気を醸し出している。

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僕は素早く記憶を巡らせてみた。

前回カントパーニを訪れたのは4カ月前だ。

 

そのときもこの男とは顔を合わせた。

野良でのあいさつを簡単に交したけれど、まあ普通の対応だった。

だが今日のこの変わりようは、いったいどうしたというのだろう?

 

この男の精神に病理的な事情で異変が起きたのなら話は別だが、そうでないなら、この4カ月の間に“情勢”が変わったことを意味するはずだ。

 

カントパーニに何らかの圧力がかかったとみて間違いないと思うんだよね。

 

肝心なのは、その圧力がマンパンの大魔王サイドからかかっているのか、それともフェンフリー同盟サイドからかってことだよ。

 

このカントパーニはマンパンからはだいぶ離れている。

だからこそ、どちらの陣営が手を伸ばしているかの見当が付けにくい。

 

僕にとっては本拠地から離れることになって危険ではあるけれど、マンパンに近ければ近いほど、フェンフリーサイドの陰謀や策略は施しづらくなるから、こういった場合の判断は楽になるんだけどね。

 

とにかく、どっちかわからないのがいちばんキツイ。

 

僕がこの任務に懸命に取り組む姿を示せば、フェンフリーなら僕のことを信用し、逆にマンパンだったら僕は警戒される。

 

逆に、任務に対して怠惰や反抗の素振りを見せればマンパンは僕に期待をかけ、フェンフリーはそんな僕の抹殺を狙うだろう。

 

どちらにせよ、試されてると思ったほうがいいな。

ここはまだ旗幟を鮮明にせず、どっちつかずな態度に徹したほうが無難なはずだ。

 

今本当にしたいのは、『質問』なんだけどね。

 

僕の目の前に立つこの男に「何かあったのか?」と訊ね、4カ月前とは豹変した態度の理由を、ぜひとも問い質したい。

 

けど、ここはヘタに情報を得ようとする冒険は避けたほうがよい

いかにも旅人っぽく、装備品への関心を示しておくべきだろうな。

 

ちょうどよいことに僕は今、何よりも剣が欲しいんだ。それと食料ね。

この二つに対する質問をしていく中で、なんとか情報を聞き出したい。

 

僕は、初対面のフリをしているこの男の芝居に乗って、自分は商人だと名乗り、道具屋を探していると告げた

 

男はうなずいて、後についてくるよう僕に告げ、先に立って歩き出した。

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