妙な物音は、不快な羽音だった。
僕は耳元で虫の羽音がすると、ブルブルッ!と頭を振って払いたくなるタイプなんだけど、みんなもそうかな?
その気になって見上げるとすぐにわかるんだけど、蜂の巣があってね、音はそこからのものだった。
さっきは老人を助けるのに夢中だったから、全く気付かなかったよ。
ゾッとしたけど、蜂の数はそんなに多くないし、よく見るとミツバチだった。
僕は、さっき老人から手渡された呪文の書を見た。
害虫を追い払う魔法なんだけど、これは僕が学んだ系統の魔法とは全く違っていて使えない。
このまま素通りしてもいいんだけど、蜜蝋が魔法の道具に使えるんだ。
RAZっていう呪文でさ。
武器の刃に蜜蝋を塗ってこれを唱えると、一時的に切れ味がグンと良くなって、斬ったときに敵に与えるダメージが倍になる優れものだ。
前にも言ったけど、今の僕が一番欲しい魔法の道具は「攻撃補助」と「攻撃回避」に使うものだから、蜜蝋はまさにピタリだ。
それから、ミツバチの巣には蜂蜜があるはず。
食料が不足している現状、ちょっとでも補充したい。
ってことで、ミツバチたちには悪いけど、ちょっとお邪魔するよ。
警戒の羽音が、明確な攻撃に変わるのはあっという間だった。
沢山の蜂が僕を取り巻いてホバリングしたかと思うと、一斉に突進してきた。
「ウワッ」
想像していたこととはいえ、やはり蜂の集団に襲われるのは肝が冷える思いだね。
普段なら絶対にこんなことはしないよ。
ただ、僕は今、なんとしても生き延びねばならない状況に置かれてるんだ。
悪いがここは、弱肉強食の原理を適用させてもらうよ……ってか、木登り中で両手が使えない僕のほうが圧倒的弱者だ。
容赦なく襲い掛かってくる蜂たちを、身じろぐ程度に体を動かして何とかやり過ごす。
「イテッ!」
ダメだ。そんな程度でこの素早い蜂の集団を躱せるはずがない。
僕はかなり手ひどく攻撃を喰らってしまった。
(メタ記述)
本文指示では「サイコロ1個を振って1~4ならそのダメージ。5か6ならノーダメージ」となっていますが、残念なことに「4」がでて最大ダメージを喰らいました。
主人公の体力ポイントはこれで19→15になりました。
「やれやれ・・」
ほうほうの体で何とか地上に降り立った僕は、目論みどおり蜜蝋と蜂蜜をゲットできた。
蜂蜜はもちろん、普通に店で売ってるみたいなドロドロの状態じゃなくて、ハニカム構造のまま外皮的な白い膜に覆われてるから、噛みついて破らないかぎり流れ出したりはしない。
これだけあれば1食分にはなるだろう。
助かったよ。これで手持ち食料は3食分になったね。