【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

カテゴリ:2日目(5月27日) > シャンカー鉱山

旅の二日目は、ひんやりした朝から始まった。

僕は相変わらず丘を登り続けていた。

途中で道が張り出して、そこだけ宙に浮いた感じの場所を見つけて、オヤと思って立ち止まった。

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杭が何本か地面に打ちつけてあるんだけど、そこにはおぞましい光景があった。

先端に刺さっているのが、なんだ。

 

刺したばかりっぽいのから、時間が経って腐りかけたものまで、人間やゴブリン、その他何の種族か判別できないものまで、等しく目と口が縫い合わされ、放置されてる

 

近くの大木に「×」という印が描かれててさ、明らかにこれは「進むな」って警告なのはわかるんだけど、この先の道は2つに分岐してて・・・

結局、どっちへ進めばいいのかは、自分で考えて決めなきゃならないんだよね。

 

ま、昨日も言ったけど、見通しの良い高地から低いところを見下ろしつつ下って行く爽快さを、嫌な仕事をしてる最中の僕は好まない

できるだけ嫌なほう、嫌なほうを選択して、「嫌気」を追求していきたいんだ。

 

当然、ここでも登る道を選ぶよ。

 

結局、数時間はそのまま登り続けた。

ようやく頂上が見えてきたけど、ここをシャムタンティの「丘」って呼ぶのはどうかと思うよ。

どう考えても「山」と呼ぶべきなんだよね、この高さは。

 

寝不足と空腹に耐えつつ歩を進めていると、何やら騒がしい音と声が響いてくる

ここは名高いシャンカー鉱山だからね。絶対に人が居て、働いてるはずなんだ。

カントパーニでの食糧調達を思い切りよく諦めたのは、ここへ来れば何かゲットできると思ったからだよ。

 

僕が勤めている環境庁では、この鉱山から漂ってくるPM2.5をはじめとする微小粒子状物質の発生には目を光らせててさ。

環境調査で何度か立ち入りがあって、僕も同行したことがある。

 

それから、粉塵が舞うこの採掘現場はモロに人体へ悪影響を及ぼすから、僕らと同じ庁舎に入ってる厚生省でも注視しててね。

主に屋外作業現場が環境庁、事務所などの屋内施設は厚生省っていう謎の不文律(いわゆる縄張り)が出来ててさ。

だから今回は、これまであまり立ち入れなかった屋内施設へ入ってみたいんだ。

 

ああ、それから、もう忘れ去られてると思うけど、僕が今回の任務のために環境庁内で配属された(併任だけど)ポジションは『カクハバード特別環境調査室』で、業務内容は『カクハバード環境影響評価』だよ。

辞令どおりに動くとなれば、厚生省の縄張りに、僕が無断で入ったらマズい



でもさ……
今回の任務って、プレスリリース上はあくまでも【王たちの冠】奪還だから、その路線に乗っかって、あとはとにかく「~等」って文言をくっつければ、厚生省もあんまり文句言ってこないと思うんだよね。

 

いや~~、「等」ってやっぱり便利な言葉だよね。

公務員やってるとやめらんないよね、「等」ってさ。

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僕は用心しながら鉱山へ近づき、木の陰に隠れながら前方の空き地をそっとうかがった

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かなりの数のゴブリンたちが集まっていて、キラキラ輝く岩とか、金塊っぽいかたまりが詰まった入れ物を抱え、洞窟を出たり入ったりしてる。

あの中を抜けていかないと、屋内施設に入れないんだ。

普段は洞窟を横目に見つつ通り過ぎているけど、いつもこの洞窟の中が気になってた

 

だって、中にどんな自動販売機があるかとか、食堂はどんな感じなのかとか、気にならない?

こういう労働現場って、それぞれ独特の雰囲気や味わいがあってさ、僕も味わってみたかったんだよね。

その秘密のベールを、とうとう今日は剥がして見ることができる。

さすがにゴブリンに混じって社食のテーブルを囲むわけにはいかないから、食事はできないけどね・・・。

 

ウキウキして便意をもよおした僕は、ついでだからトイレにも入っておきたくて、ゴブリンたちの動きが途切れた一瞬のスキに、洞窟からそっと内部へ忍び込んだ

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薄暗い坑道の中は、あまり遠くまで見通しが利かないけど、逆に言えば、遠くからなら僕の姿もはっきりとは見えない。

 

誰かに姿を見られた時の用心に、シルエットだけでもゴブリンに寄せておこうと、僕は少し猫背になってアゴを突き出し、肩を広げて両腕を身体から離すように垂らし、少しガニ股に歩くようにした。

でも、基本的に手ぶらで歩いているゴブリンは見なかったので、僕は背負い袋をお腹側に回して抱えることにした。

 

注意深く歩を進めていくと、坑道が二股に分かれる場所へ来た

右か? それとも左か?

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右か左か迷ったとき、人は無意識に左を選択するケースが多い。

だから、罠があるとすれば左に隠されていると思え。


ねんどろいど HUNTER×HUNTER クラピカ ノンスケール ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア

 

これは、僕が生まれ育ったアナランドに古くから伝わる格言で、どこかの国のクラピカという賢人が発した言葉らしい。

 

ただし、これは経験則がベースの仮説にすぎないと僕は思うんだ。

科学的じゃないよね。

前も言ったけど、魔法使いは超のつく現実主義者でね。

基本的にこういったものは信用しないんだ。

とはいっても実績から導き出されたものである以上、この局面で左へ進むのは何とも嫌な気分だ。

 

ということで僕は左を選ぶよ。

これは何度か話したけど、せっかく嫌なことをしているんだから、その最中はできる限り嫌なことを追求していくのが僕のスタイルだからさ。

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やがて僕の行く手に、大きな石の扉が出現して、そこで足を止めざるを得なくなった。

でもここで引き返したら、何のためにリスク覚悟で忍び込んだかわからない。

 

もちろん進むさ。

僕は扉の取っ手に手をかけてみた。開くぞ。

そっと開いた扉からのぞき込むと、中はそんなに広くない。

ホコリですすけて汚い部屋の奥に、また別な扉があって、そこからさらに奥へ進めそうだ。

 

是非とも坑道の最奥を目指して探検をしたいとこだけど、ひとつ問題があるんだよね。

大きな問題が、さ。

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どうもここは事務室らしくて、奥のデスクに誰かが突っ伏して眠ってるんだ。

目を凝らすと、どうやらそれはゴブリンらしい

 

たぶん、外で働いてたゴブリンたちの監督者なんだろう。

あの連中の勤怠管理とかしてるんだろうね。

で、作業員たちが外で労働しているこの時間帯は、少し手が空いて居眠りしてるんじゃないかな。

僕にとっては都合がいい。そのまま寝ててくれよ。

この部屋を通り抜けて先へ進むまで、コイツに気づかれないようにしなくては

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僕はそっと足を忍ばせて室内に入った。

ゴブリンと言えばたいていは大ざっぱな連中だから、少々のことでは目を覚ましたりしないと思うんだ。

すすだらけで真っ黒の寝顔を横目で見ながら、僕は部屋の中央に向かった。

 

しかし、考えが甘かった。

このゴブリンは、ゴブリンのくせに鋭敏な感覚を持ち合わせてるみたいだ。

僕は既に部屋の中央。

引き返して退出できない位置まで進んだあたりで、ヤツは頭をもたげてクンクンと臭いを嗅いだ。

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「おかしな臭いじゃ、よそ者だな!」

マズい。

ゆうべ狼男と戦ったとき、たっぷりと獣の臭いが僕の体に染みついててさ。

気にはなってたんだ。

でもまさか、ゴブリンに気づかれるほどだとは思いもしなかったよ。

 

ゴブリンは挑むように畳みかける。

「ここへ入ってきてはならぬ!」

 

たしかに僕はよそ者だけど、まずどこの誰かぐらい訊ねたらどうだ?

会議中とか作業中で部外者厳禁な状況ならともかく、オマエ寝てただけじゃないか!


まさか、勤怠をごまかして賃金を中抜きしてたんじゃなかろうか?

今、僕は『中抜き』という言葉には激しい憤りを感じる

今回の業務だって、大型予算の大半が中抜きされてデソシーとハンナという御用商人の懐に入ってるしね。

 

結局、現場の僕は食費も満足に与えられないまま、命がけの仕事をさせられてるんだ

いや、僕だけじゃない。

 

アナランドのミスで借り物の【王たちの冠】をパクられたせいで、世界中が危機に陥っている

既得権益ありきの発注を請け負ってずさんな管理をしていた商人ハンナと、とにかくそこへ予算を落とす画策をした連中がその責を負うべきと思っている領民たちは、はらわたが煮えている。

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政治家や宮廷官僚に象徴される上流領民が、この世界の危機を、あたかもボーナスステージであるかのように、次々と手前勝手な政策と予算をひねり出し、自分たちに都合の良い場所へ大金を流し込んでいる。

 

僕らのような下級公務員は、そのうまみには全くの無援で、負担ばかりが増えている。

でも正規公務員はまだマシなほうだよ。

クビにはならないし、減ったとしても賞与はあるし退職金も出る。

 

そうはいかないのが一般領民だ。

特に非正規の労働者。

彼らは毎日不安におびえ、爪に火をともし、我慢に我慢を重ねて生きている。

一般領民の経済的苦しみの対極にある「NAKANUKI」

 

これだけは許せない!

(殺るしかない)

僕は瞬時にそう判断した。

体力的には正直キツいんだけど、中抜きは許せないんだ。

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中抜きの疑いありとみたゴブリンに迫る僕。

その気配を察して、巨大な石の棍棒を手に立ち上がったゴブリン

もはやどちらかが、あるいは両者が血を見ずには収まるまい。

 

(メタ記述)
主人公:技量8(+1広刃の剣) 体力11

ゴブリン:技量7 体力6

 

さすがにゴブリン相手なら僕が優位だとは思う。

ただコイツはひときわ体がデカくて怪力なことは、棍棒の大きさが物語ってる。

圧倒的な力の差は無い以上、長丁場は危険だ。

ここもひとつ、魔法を使って保険をかけておきたい

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「RAZ」

昨日、蜂の巣で手に入れた蜜蝋を、さっそく使うことに決めた。

剣に蜜蝋を塗ってこの呪文を唱えると、切れ味が格段に上昇する。

与えるダメージが2倍になるんだ。

蜜蝋をゲットしたときに失ったダメージ分くらいは役に立ってくれよな。

 

(メタ記述)
道具を使う呪文【RAZ】を唱えたため体力を1消費

主人公:技量8(+1広刃の剣) 体力11→10

蜜蝋はあと1回しか使えないことになりました。

 

・・・

一度も手傷を負わされることなく、ゴブリンを倒すことに成功した。

これで、中抜きの種がひとつ潰れたことだろう。

しかし、浜の真砂は尽きるとも、世にNAKANUKIの種は尽きないと言われる。

 

いや、僕が生きてこの世にあるかぎり、目に入った中抜きは徹底的に潰して行こう。

国を出た以上、アナランドのしがらみに付き合うのはまっぴらだ。

蹴とばされるように命がけの任務に出されたのだから、こっちだって好きにさせてもらう

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予算の追加配布は認めないと言い張った会計担当者(別名【財務大臣】)は、僕が2日目で早くも命の危機にあることなど知らんだろうし、知ったところで毛ほどにも思わないだろうね。

中抜き財政出動には躍起になるけど、実行担当者への食糧支給など言語道断なムダ金のようだしね。

 

だから僕は現地調達で賄うことにする。

まずはこの部屋を物色しよう。

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