旅の二日目は、ひんやりした朝から始まった。
僕は相変わらず丘を登り続けていた。
途中で道が張り出して、そこだけ宙に浮いた感じの場所を見つけて、オヤと思って立ち止まった。
杭が何本か地面に打ちつけてあるんだけど、そこにはおぞましい光景があった。
先端に刺さっているのが、首なんだ。
刺したばかりっぽいのから、時間が経って腐りかけたものまで、人間やゴブリン、その他何の種族か判別できないものまで、等しく目と口が縫い合わされ、放置されてる。
近くの大木に「×」という印が描かれててさ、明らかにこれは「進むな」って警告なのはわかるんだけど、この先の道は2つに分岐してて・・・
結局、どっちへ進めばいいのかは、自分で考えて決めなきゃならないんだよね。
ま、昨日も言ったけど、見通しの良い高地から低いところを見下ろしつつ下って行く爽快さを、嫌な仕事をしてる最中の僕は好まない。
できるだけ嫌なほう、嫌なほうを選択して、「嫌気」を追求していきたいんだ。
当然、ここでも登る道を選ぶよ。
結局、数時間はそのまま登り続けた。
ようやく頂上が見えてきたけど、ここをシャムタンティの「丘」って呼ぶのはどうかと思うよ。
どう考えても「山」と呼ぶべきなんだよね、この高さは。
寝不足と空腹に耐えつつ歩を進めていると、何やら騒がしい音と声が響いてくる。
ここは名高いシャンカー鉱山だからね。絶対に人が居て、働いてるはずなんだ。
カントパーニでの食糧調達を思い切りよく諦めたのは、ここへ来れば何かゲットできると思ったからだよ。
僕が勤めている環境庁では、この鉱山から漂ってくるPM2.5をはじめとする微小粒子状物質の発生には目を光らせててさ。
環境調査で何度か立ち入りがあって、僕も同行したことがある。
それから、粉塵が舞うこの採掘現場はモロに人体へ悪影響を及ぼすから、僕らと同じ庁舎に入ってる厚生省でも注視しててね。
主に屋外作業現場が環境庁、事務所などの屋内施設は厚生省っていう謎の不文律(いわゆる縄張り)が出来ててさ。
だから今回は、これまであまり立ち入れなかった屋内施設へ入ってみたいんだ。
ああ、それから、もう忘れ去られてると思うけど、僕が今回の任務のために環境庁内で配属された(併任だけど)ポジションは『カクハバード特別環境調査室』で、業務内容は『カクハバード環境影響評価』だよ。
辞令どおりに動くとなれば、厚生省の縄張りに、僕が無断で入ったらマズい。
でもさ……
今回の任務って、プレスリリース上はあくまでも【王たちの冠】奪還だから、その路線に乗っかって、あとはとにかく「~等」って文言をくっつければ、厚生省もあんまり文句言ってこないと思うんだよね。
いや~~、「等」ってやっぱり便利な言葉だよね。
公務員やってるとやめらんないよね、「等」ってさ。
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