僕は金貨を1枚取り出し、乞食に渡した。
こういうことがあるから、手元に数枚は残しておきたかったんだよね。
金貨5枚の宿賃+食事代を、金貨10枚相当の宝石で支払った損失を、わずかながらも取り返した気分だ(無理にでもそんな気分になるぞ)。
受け取った貨幣を手で探り、それが金貨であることを知ると、この盲目の乞食は感激した。
「なんともったいない! このような広いお心に、このままではすまされません!」
何をするのかと見守っていると、乞食はポケット手を入れた。
まさか「いにしえの勇者に封印されしこの姿、無垢なる者の念を込めた金貨により、ついに解呪の時を迎えたのだワハハハハハ!」みたいなことはないよな?
いちおう、魔法封じの呪文を使う準備をしながら待ち構えていると、彼はポケットから銅製の鍵を取り出して僕にくれた。
どうやら封印された魔王ではなかったようだと、僕はホッとした。
彼はかつて、このシャムタンティの丘を越えた向こうにある、カーレという街で牢獄の監守をしていたが、どうやらレッド・アイというヤツのせいでこんな運命になったらしい。
僕がカーレを通り抜ける予定だと話すと、とにかくレッド・アイに気を付けなさいと繰り返す。
きっと大事なことなんだ。
カーレはよそ者に用心深いとアドバイスをくれるけど、それは大丈夫、カントパーニから散々味わってきたよ。
「もしも警備の者に捕らえられても、この鍵さえあれば大丈夫です」
まさか、マスターキーか? まさかね。
鍵には「206」という数字が刻まれている。
なんとなくリトグラフが頭に浮かんだ。
マスターキーが乱造されてて、これは206個目の複製品とかさ。
謎が深まったけど、とにかくカーレは要注意な街だってことだね。
環境問題的に言えば、人口が密集しているだけに、むしろカーレ周辺の一帯が怪しい気もするな。
不法投棄による地盤や水質の汚染とか。
バクランドを縦断するジャバジ河を渡る唯一の街だから、どっちにしても避けては通れない。
ジャバジ河流域の有害物質の状況とか、調べたいな、現実逃避のために…
ま、気をつけていくよ。
僕は乞食に礼を言って、立ち去った。
結局彼とクリスタタンティの関係性は謎だったけど、これ以上時間を割けないんで、悪いけど行かせてもらうよ。
(メタ記述)
金貨:5→4
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