【公的勇者】ソーサリー主人公が高卒公務員だった場合

スティーブジャクソンの傑作「ソーサリー」のプレイ小説。 愚痴と不満が渦巻くニヒリズムファンタジー

カテゴリ:4日目(5月29日) > ビリタンティ

丘を少し下ったところで一休みしたことで、僕の運命は変わった。

 

大きな丸い石に腰かけて、この先の道を見やった僕は、下方に開ける視線の先に、少し大きめの村があるのを見つけてホッとしたため、夕刻間近だってのにしばらくボンヤリしてしまったんだ。

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太陽が急速に傾き出したので、僕はあわてて立ち上がった。

歩き出した僕の耳に、陽気で甲高い声がした。

声のほうに目を向けると、僕の肩のあたりを、親指くらいの小さな生き物が飛び回っている

顔は人間の子供のようだけど、肌の色は緑でやせこけていて、透きとおった羽根を動かして鮮やかに飛んでいる。

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「ミニマイトに会ったら走れ」

かつて環境庁に出入りしているエルフの商人が、そんなことを言っていた。

ちょうど僕が、今回の任務担当者に決まった発表の直後くらいだったかな。

 

「あんた、魔法使いだろ? …なら、ミニマイトに出会ってしまったら、とにかく走るんだ」

「?」

謎めいた言葉を残して、そのエルフは去って行ったんだけど、その時は適当に聞き流しちゃったんだよね。

だって、検収でそのエルフが納品ミスをやったときだったから、話そらして誤魔化してるだけだと思ったんだ。

 

ミニマイトっていうのは、かなり昔からいる老舗の種族でさ。

その割に謎が多くて、僕もそのときのエルフ商人の言葉が気になって、あとで調べてみたんだけど、文献によってずいぶん情報が違っていてね。

 

特に、魔法に関係する情報を念入りに見ていったんだけど、これが完全に真っ二つなんだ。

「ミニマイトは防御魔法が強い」

って書いてる記録と

「ミニマイトは魔法防御が強い」

っていう記録が、大体半々ぐらいに存在しててさ。

 

これって、意味が全然違うんだよね。

“防御魔法”は、普通の肉体戦闘のときにダメージを受けにくくなる魔法のことで、要は物理防御強化のことなんだ。

 

だけど“魔法防御”ってのは、魔法に対する耐性を意味している。

 

たとえばさ

メチャメチャ強烈な防御魔法でカッチカチの体になって、「剣でも矢でも跳ね返すぞコラァ!」ってドヤ顔の戦士がいたとするじゃない?
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でも、敵側にも魔法使いがいて「フンッ」って鼻で笑って雷系や炎系の攻撃呪文を繰り出して来たら、ドヤ顔戦士のアドバンテージは何の効果も持たないんだ。

魔法攻撃は、物理攻撃とは異質の力が加わるからね。

 

逆に、魔法防御力に自信満々の魔法使いが、ドヤ顔で「魔法打ってこいやコラァ!」って万能呪文を唱えるとするでしょ。
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たしかにその状態なら、魔法で攻撃されても利かないと思うけどさ。
ても、普通の戦士に物理攻撃を仕掛けられたら防御効果はゼロなんだ。

 

“防御魔法”と“魔法防御”は、言葉は似てるけど、意味がぜんぜん違う。

ミニマイトは、どっちなんだ?

それに「会ったら走れ」というエルフのアドバイスは何だ?

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もしもだよ

ミニマイトの“防御魔法”が強いなら、むしろ僕に同行して、戦闘のときにかけてほしい。

そうじゃなく、強いのが“魔法防御”のほうならば、相手の攻撃魔法を無効にしてくれたら助かるんだけど。

 

「走れ」っていうエルフの言葉は「怖いものなしになるから、なんでも思い切りやれ」の意味?

なんか不穏な感じだけど、今の僕には願ってもない話だ。

 

ミニマイトは自由で気まぐれな性格だっていう記録も、あちこちの文献に散見されたから、気が変わって僕から離れていく前に、一気に大魔王の元まで、それこそ駆け抜けたほうがいいかもしれない!

そう考えて、一瞬僕の気持ちは沸き立った。

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「待てよ」

もしミニマイトが強力な魔法防御力を持っているとしてさ

“相手が使う魔法を無効にする”っていうときの“相手”ってさ、要するに、「その場にいるメンバーの中のミニマイト以外のヤツ」ってこと?

つまり、僕が使う魔法も無効になるのかな?

 

背筋を悪寒が走った。

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(試してみるべきだな)

ミニマイトと魔法使いの関係性についてを

 

初めて使う洗剤は、衣類の目立たない部分で試すのがセオリー。

もし色柄落ちする相性のものだったら、ダメージデカいからね。

 

だから僕も、今のうちにミニマイトに試してみるよ。

強めの魔法を使ってみて、それでも効かなかいなら、僕はこの旅始まって以来最大の危機に直面することになる。敵の罠にかかったときとか戦闘の最中にそのことを知るのは最悪だから、何も起きていないこの状況で実験しておきたい。

 

動きがすばしこいから、コイツ自身にかける魔法じゃ上手くいかない気がする。

だから、僕との間に壁を作り出してみよう。

その間に見つからないほど遠くへ離れれば、何とかしのげると思う。

 

「WAL」

あらゆる飛び道具も生き物もはねつける、見えない壁が出現する。

これでミニマイトの動きを封じ込めれば、魔法効果が切れるまでの間に、僕は逃げおおせると思う。

WALは強力な呪文だからね。

 

前方の村はかなり大きくて人も多そうだから、あの中へ逃げ込めればひとまず安全じゃないかな。

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…だが、壁を出したにもかかわらず、後ずさる僕にミニマイトは平然と近づいてくる。

壁は僕の鼻先に出したはずなのに…

 

ミニマイトはクックッと笑う。

「ぼくがそばにいるあいだは、魔法をかけようったって時間のむだなのさ」

ドヤ顔でそう僕に告げた。

これが、エルフ商人が僕に教えてくれた言葉「ミニマイトと会ったら走れ」の理由だったんだな…。

 

それに、魔法をかけるのは時間よりもむしろ体力のムダだ。

WALは基本魔法のひとつで、効果こそ絶大だけど、体力の消費が激しい。

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(メタ記述)

WAL詠唱は体力ポイント4を失う。

体力ポイント:15→11

 

これは、終わったかもしれない。

一休みなんかしなければよかった。

魔法を使えない魔法使いは、使えない公務員だ。

ミニマイトがそばにいる限り、僕は任務など達成できないと思う。

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この迷惑な生き物は自分の名を「ジャン」と名乗った。

迷惑なくせにやけに親し気でさ。

前方の村はビリタンティで、村人は親切だから、旅人たちはみなここで1泊はしていくと怪しいガイド情報を僕に聞かせてくるんだ。

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客引きのバイトでもしてるんじゃないのか?

僕はそんな簡単に言いなりにならないからな。

 

だいたい、どうせお前も村情報には詳しいけど、アナランドでGOGOトラベルキャンペーンの対象地域からカクハバードが外されたなんて知らんだろう。

 

「アナランド、やっちゃったね。ククク…、『圧倒的にカクハバード問題』とかいって、急にこの一帯をGOGO除外地域にしちゃったでしょ?」

…コイツ、知ってやがる。

 

「でね、2か月後くらいに急に解除するよ。それから2カ月くらいしてやっぱり問題が起きると『カクハバード地区から要請があれば、各首長の責任においてまた除外』ってやりだすよきっと」

オマエ、どこまで知ってるんだ…?

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どうやらとんでもない情報通らしい。きっとコイツの住まいは2階にあるな。

とにかく僕はコイツに用がない。

それどころかコイツのせいで命取りになることは必定。

去ねさらせ!

 

「いうよね~!」

僕を嘲笑うかのようにジャンは言う。

「でも、どうしてもついて行くからね~!」

 

ムカつくから両手でパチンと叩き潰してやろうとするんだけど、やはりコイツは動きが速すぎて捉えられない。

しばらく頑張ったけど諦めることにした。

仕方なく、僕はジャンを肩に止まらせたまま丘を下り、ビリタンティ村へ向かうことにした。
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まんまと客引きに成功した格好のコイツに、いくらのバックがあるんだろうか?

そう考えるとムカムカする。

 

それに、コイツを引き連れたままだと魔法が使えない

 

ジャンがビリタンティ専属だったら、魔法封印状態は村を出るまでの間だから何とかなるかもしれないけど、もしも「シャムタンティ担当」だったら、この先もずっとこのままで、カーレの街に入るまで僕は戦士と同じ行動しかとれない。

 

魔法使いは呪文習得に時間を取られるので、戦士よりフィジカル面で弱いのが普通だから、呪文が使えない魔法使いは、ひとことで言えば「戦士の劣化版」だ。これはマズい。

 

そして、まさかとは思うけどジャンが「カクハバード担当」だったら、うっかりコイツに目を付けられてしまった僕の冒険は、終わる…。

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ビリタンティは、ちょうどハロウィンの真っ最中だった。

この村では今がその祭りの時期なんだ。

子供たちがいたずらではしゃぎまわるのはいいんだけど、中にはエールで酔っぱらって狼藉を働いてる奴もいてさ。

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あまりハメを外し過ぎると叩かれるぞ。

来年参加するやつがアホ扱いされるからやめとけよな。

 

向こうのほうに宿屋があるんだけど、手前に<グランドレイガー酒場>っていういかめしい名前の看板と、<クリスタルの滝>っていうおもてなしっぽい標識があるのが目に付く。

 

のちのち大問題になりそうだから<クリスタルの滝>は避けて、究極技の名前みたいな<グランドレイガー酒場>へ行ってみよう。

 

店の前では少年たちによる集団格闘が展開されているが、ガン無視を決め込む。

ちなみにクリスタルの滝へ向かう道の前には少女たちがたむろして、そこを通る大人たちに足を引っかけて躓かせては笑いあってる。それでいいのかこの村?

 

店に入ると陽気なグランドレイガーが温かく迎えてくれた。

にこやかな笑顔とともに、たった1杯のエールに金貨2枚の対価を要求した。

クリスタタンティで入った居酒屋の2倍の金額だ。

グランドレイガーのにこやかな顔が、逆に怖い。値段を言う時の目が笑ってないんだ。

店の前で暴れてる乱暴そうな少年たちが、店内には全く入り込む様子が無い理由がよくわかる。

少しでもグランドレイガーにちょっかいを出したら、二度と生きて店を出られないことを皆知ってるに違いないぞ。

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さて、たかがエール1杯に金貨2枚を要求された僕。

厳密には値段を聞いただけで、まだ注文してないのだけど、グランドレイガーは僕の顔から一度も目をそらすことなくジョッキにエールを注ぎ、台に置いた

ダッシュで店を飛び出して逃亡しようという気持ちも湧いたけど、瞬時に悟ったんだ。

僕がグランドレイガーに背を見せて逃走を図った瞬間、かれはこう叫ぶに違いない。

 

「ギルティ」

それは呪文じゃない。

店の前で暴れる少年たちへの指令だ。

一瞬で僕は取り押さえられるだろう

そして、ミニマイトのジャンは僕の魔法を封じ、逃がさないための保険に違いない。

完璧な包囲網にかかってしまった僕には、もはや指定どおりの価格を受け入れる以外の方法はないだろう。

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ちなみに、前も何度か言ったけど、下級公務員の僕の年収は、今回の任務で渡された金貨20枚とさほど変わらない。

年収の10分の1近い「ジョッキ1杯のエール」ってさ…

バカ高い年代物のワインだって、1回で飲み切るわけじゃない。
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どう考えても高すぎだろ。

ただ、こういうところの酒代って、「情報料」っていう意味合いもあるからな

 

僕はグランドレイガーに物々交換を持ち掛けた。

カントパーニで買った「歯の入った袋」なんかどうかな?

ゴブリンとジャイアントの歯は、魔法に使うからあげないけど、デス・ハウンドとスナッタキャット、それとサルの歯を袋付きであげるよ。何の役に立つか知らんけど。

 

「OK」

グランドレイガーは申し出を受け入れてくれた。

ラッキー! 金貨2枚と、僕の命が助かった。

 

僕は自分がカーレに向かっていることを話すと、それにはトレパーニ村を通らなくてはならないと彼は言う。

そして、そこに住むスヴィンたちの、最近の様子が変だと教えてくれた。

理由は不明だそうだ。

 

これは良い情報だ。

トレパーニでは、とにかく揉め事を避けろってことだね。

 

少々酔ってきたので、この辺で宿屋へ向かうとするか。

追加料金を覚悟したけど、彼にとって動物の歯はよほど価値のあるものらしいね。

何も求めてこなくて助かったよ。

 

(メタ記述)

ステータス

主人公:技量8(+1広刃の剣) 

体力11→13(グランドレイガーのエール) 

運勢ポイント8

金貨:10

食料:2

持ち物:なまくらの剣、竹笛、ゴブリンの歯12、ジャイアントの歯1、デス・ハウンドの歯、スナッタキャットの歯、サルの歯、銀の鍵(111)、金貨10枚分の宝石1、にかわ入り薬瓶、鼻栓、玉石4、スカルキャップ

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