翌朝目覚めて、ふと指を折って出発からの日数を数えてみた。
今日で5日目になる。
ようするに、併任辞令により今回の任務に就いてから5日目の時点で、僕はシャムタンティの丘でようやくビリタンティを抜けたところにいる。
【王たちの冠】が盗まれた日を基準に考えると、今日現在で奪還のための工作員がカーレにも達していないってのは、致命的に遅い。
けど、政府が僕の辞令を2か月近く日延べさせた愚行に比べれば、淡々と前進している僕の仕事は神業と言うほどに早いはずだよ。
頭の周りで飛び回るジャンを鬱陶しく思いながら歩く僕は、やがて分かれ道に行き当たった。
この先の丘を登るか下るかなんだけど、もう何度も言ったとおりで、シャムタンティではシャンカー鉱山で高さのピークに達した僕は、この先の判断では常に下り道を選ぶことにしている。
谷に沿って1時間下る道は、やがて登りに転じ、また下っている。
もう昼なんだけど、食料はあと1食分しかないので手を付けずにおいた。
ところで、ずっと気になってるんだけど、ジャンはどこまでついてくるんだ?
ビリタンティを離れてずいぶん経ったけど、相変わらず僕のそばを離れないんだ。
こいつはやっぱり、全国旅行業協会のシャムタンティ担当だったか?
なら、僕は少なくともカーレに着くまでは魔法が使えないぞ!
どうするか…
フィジカル面で戦士に劣る魔法使いは、呪文が使えるからこそ戦士のことを「消耗さん」なんて裏でこっそりあだ名を付けてるけど、僕らが「消耗さん」と同じ状況に陥ったら戦士たちから「ひ弱ちゃん」て揶揄されちまう。
おまけに、ジャンがカーレにいる旅行業協会の現場員に僕を引き合わせたら…そしてもしそいつもミニマイトだったら、僕はカーレでも魔法が使えないんだ。
やはり、是が非でもコイツは殺っちまわにゃならん…
すばしこくて捕まえられないけど、ジャンはたしか昨日、グランドレイガー酒場で僕と一緒にエールを飲んで、酔っぱらってたよな。
(ヨシ)
次の酒場では、大枚をはたいてでもコイツに酒を飲まそう。
僕は飲むふりだけして油断させ、動きの鈍ったところをパチンと…
「待って!」
ジャンが叫ぶので僕はギョッとした。
まさかコイツ、僕の頭の中が読めるのか?
僕は背負い袋に入っているスカルキャップのことを思い、背筋が寒くなった。
スカルキャップをかぶってTELの呪文を唱えると、僕も相手の考えが読めるようになる。
ジャンはよく見ると、頭に何かをかぶっているようにも見える。
髪だとばかり思ってたけど、ひょっとするとアート〇イチャーか?
スカルキャップだけど髪っぽくなるアレを発売してるのかもしれない。
「違うよ、これはカ〇ラじゃない!」
(ナニッ?)
〇ツ〇じゃないのか?…いやそこじゃない、オマエまさか、僕の考えてることが読める?